UPDATE : 2013/Dec/19
AUTHOR:
随筆家 ヤマヒデヤ
「ひとり」
これもひとつの愛という側面か
彼女と出会ったのは
それ程昔ではない筈だ
しかし
その当時の事を
思い出そうとすると
不鮮明で
はるか昔のように感じた
僕はマンションを出て
近くの路上でタクシーを拾った
それは
生憎の雨模様であった為である訳だが
雨とゆうものは
僕自身の価値観からすると
部屋の中や車の中からが正解で
打たれるのは不正解だ
そう勝手に結論付けている
まあ
それはどうでもいい話しなのだが
とにかく
雨に打たれるのを避ける為にも
タクシーを拾った
車の中からの雨は正解だったのだが
タクシーは不正解だった
僕としては静かに
目的地に着くまで
後部座席に着きながら
窓に当たる雨粒の流れを
見ていたかった
そういう
混沌とした時間の使い方が
理想であったのだが
それとは合い半して
タクシードライバーは
延々と喋り続けた
運転が本業なのか
喋るのが本業なのか
わからなくなる程
イライラしつつ
適当に話を合わせた
無視をする程
強く無い
静かにさせる程
サディスティックでも無い
目的地までの
数十分我慢すればいいだけだ
雨脚は強くなった
雨に打たれるのは面倒だ
彼女の仕事はなんなのか
よくわかっていない
医療関係の何かである
という事くらいだ
彼女と僕の間には
そういう事は
あまり関係ないらしい
わかっている事は
彼女は時々
僕が必要になり
その時だけ
彼女のやりたい事に
付き合うだけだ
大切にしていたモノがあった
物心ついた時から
数回目の誕生日にそれを貰った
飾ってみたり
触ってみたり
動かしてみたり
そして
そのモノがいつしか
自分の手元にあったのを
忘れるまで
そう
忘れてしまったのだ
忘れてしまった頃
両親は離婚した
それから
母と弟との三人暮らし
引っ越しはしなかった
代わりに父が出て行った
理由は知らない
寂しく無かった
父が嫌い
という訳でも無い
ただ
父が出て行った
というだけだ
それからまた数年して
社会人になった頃
母と弟を亡くした
放火だった
犯人は直ぐに捕まった
現場にあった
忘れていたモノがあった
手が焦げていたので
手をもぎ取った
そして新しい家に飾った
更に十年が過ぎた
決心がついた
本当にひとりになろうと
その為には儀式が必要だった
立会人も必要だった
二人はBARで飲み明かし
外へ出るとすっかり雨もやみ
アスファルトも乾いていた
交差点でタクシーを拾い
走らせた
目的地はどこでも良かった
ただ
あまり人が来ない処が良かった
タクシーを止めた
料金を払い
二人は少し歩いた
海のすぐ近くだ
大きな川の側を歩いた
川の反対側では
高速道路の増設工事をしていた
朝になる寸前の夜
人はいない
二人は足を止めた
ここで良いのだろう
お別れだ
そして
彼女は
独りから
一人になった
あれから
何年たったのかは
覚えていない
一年かもしれない
十年かもしれない
不鮮明だ
ほな!