路上のモノ

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「路上のモノ」 その壱

UPDATE : 2013/Mar/01
AUTHOR: 随筆家 ヤマヒデヤ

「路上のモノ」 その壱

 

「音」

 

 

私の名前はミカ

 

そう呼ばれていました

 

ユキちゃんの5歳のお誕生日に
お父さんに買ってもらった

 

最初は何を弾くわけでもなく
ただただ スイッチや鍵盤を指一本で 押していました
きっと もの珍しくて
それだけでも 楽しかったのでしょう

 

幼稚園に入る頃までは
そんな感じでした

 

幼稚園に入ると 先生のマネゴトをしようとして
色んな曲にチャレンジし始めました

 

それほど うまくいきません

 

それでもユキちゃんは 諦めませんでした
あまりの熱心さに お母さんもピアノ教室を 考えたくらいでした
でも ユキちゃんの家は そんなに裕福ではありませんでした
結局 ユキちゃんに話すこともなく お母さんはそれを諦めました

 

ユキちゃんは 毎日毎日 私を弾き続けた
少しずつではありましたが 上達してきました

 

キラキラボシやチューリップ
あと その頃のテレビアニメの曲なんかを
指一本で弾けるようになりました

 

まだ 両手では弾けません
というか よくわかっていません

 

小学校に入ると ピアノを習っているお友達ができました
お家に行くと ピアノがありました
ユキちゃんの目は キラキラです
お友達はユキちゃんのために 1曲弾きました
題名は なんだったかは忘れましたが
彼女はちゃんと両手を使って 弾いています
ユキちゃんは ビックリしました
そして目が またキラキラ

 

左手で弾くことを 知ったユキちゃんは
家に帰って早速 私に立ち向かいました
ユキちゃんは 音楽の基礎や基本をまったく知りません
当たり前です

 

それでも ユキちゃんは諦めません

 

最初は左手の人差し指1本
右手の人差し指1本 からでしたが
なんとか それらしくなってきました

 

ある日 お父さんは「やさしいピアノの本」を買ってきてくれました
本当は キーボードの本にしようかと 考えたのですが
ユキちゃんはピアノが大好きなので ピアノの本にしました

 

ユキちゃんは 大喜びです

 

めったに 本なんて読まないユキちゃんが
毎日 それをよんでいます
そして 私で練習しています

 

ある日 ユキちゃんは私に シールを貼ってくれました
そこには「ミカちゃん」と書いてありました
その日から 私はミカになりました

 

名前があるというのは とても気分が良いです

 

小学校の高学年になる頃には そうとう上達していました
テレビのアイドルの歌なんかも 弾いていました
すごく 楽しそうです

 

中学生になった頃 ユキちゃんは学校で貧血になり
早退してきました

 

お母さんは 念のために 近くのお医者さんに診てもらいました
診察の結果 ここでは精密な検査ができないので
市の大きな病院に行くよう 紹介状を渡されました

 

ユキちゃんもお母さんも 不安になりました
その夜は 私を触りませんでした

 

次の週 お母さんとユキちゃんは 市の大きな病院で 大掛かりな検査を
受けるため 2日入院しました

 

3日後 退院できる筈でしたが
そのまま 入院になりました
ユキちゃんは不安です
お母さんは動揺しています
お父さんは難しい顔をしながら 笑顔を作っています

 

ユキちゃんは 言いました
「ミカ… いや あのキーボード 持ってきて
イヤフォン付けたら うるさくないし」

 

お母さんは 家から 私をユキちゃんのところへ 連れて行きました
なんだか 久しぶりに見たユキちゃんは なんだか元気がなく
やつれた感じがします
私は悲しくなりました

 

その日から 私とユキちゃんの新しい生活が 始まりました

 

お母さんは ユキちゃんの入院費のために 一生懸命に働いています
ですので 殆どは 私と過ごしました

 

ユキちゃんは 前以上に 明るい曲を弾くようになりました

 

私は思いました
ユキちゃんに 元気になってほしいと

 

しかし ユキちゃんの病状 はおもわしくなく
どちらかというと 悪くなっている気がします

 

私は お願いをしました

 

「神様
ユキちゃんの
1年 1ヶ月 1週間 1日 1分 1秒
少しでもいいから 元気にして下さい
その代わり 私を捧げます
お願いします」

 

次の日から 私は1日に1つのボタンか 1つの鍵盤が壊れていきました
その代わりに ユキちゃんはちょっとずつ 元気になっていきました

 

私は嬉しい

 

そして とうとう私は なんの音も出なくなりました
その次の日に ユキちゃんは退院しました

 

ユキちゃんは 壊れているにもかかわらず
私を家に 連れて帰ってくれました

 

お父さんとお母さんは ユキちゃんに新しいキーボードを 買ってあげました
その日から ユキちゃんは 私とではなく
その子と遊んでいます

 

ユキちゃんは 高校生になりました
ボーイフレンドもできたようです
毎日が 楽しそうです

 

あの病気になって以来 半年に1度は検査に行っています
毎回 何事も無かったですが
高校2年生の秋に 新しいそれは見つかってしまったようです

 

即入院
今回は 前回と違い どうも様子がおかしいです
私は病院にいないので ユキちゃんの様子がわかりません
家で お父さんとお母さんの やり取りが そう思わせるのです

 

2ヶ月後 ユキちゃんは一時退院して 家に帰ってきました
寝てないとダメな筈なのに ユキちゃんは私を連れ出しました

 

どういう訳だか 私を道路ぞいの植え込みに そっと置きました

 

私は動揺しました
なぜっ?
という思いで

 

ユキちゃんは 言いました
「今まで ありがとう
もう 会えなくなるから
私がアナタと 先に
バイバイすることにしたの
私以外の誰かに 処分されるのは
嫌だったの
ここに置くのも 良くないけど
粗大ゴミで 出す気にはなれなかったの
なんだか 残酷な気がして

 

きっと ここだと目立つから
誰かがミカを拾ってくれるよ
で修理して使ってくれるかも
って そう思ったの

 

そして 私の分まで…」

 

そこまで言って ユキちゃんは
泣いてしまいました

 

 

そういう事があり
私とユキちゃんは 離れ離れになりました

 

 

もう一度だけ
音がなって
ユキちゃんに
弾いてもらいたかったです

 

 

ほな!

 

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