路上のモノ

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「路上のモノ」 その弎拾六

UPDATE : 2014/Jun/26
AUTHOR: 随筆家 ヤマヒデヤ

「路上のモノ」 その弎拾六

 

 

 

「扇風機下部のダミ声」

 

 

 

僕は自転車に乗っていた
気持ちの良い朝だ
特にいい事があったわけでもない
右足の次に左足を前に出す
そして自転車は前に進む
耳には心地よく
Cartoraのmundo e um moinhoが流れる
午後からはかなり暑くなるだろう
この時間はまだ過ごしやすい

 

 

 

そんな爽やかな朝を
ぶち壊すほどのダミ声が

 

 

「にぃちゃん
ちょっと
にぃちゃん」

 

僕は通り過ぎた
それはそうさ
横を通過する時にいきなりだった
だからそれはしょうがない

 

しかも
ヘッドフォンをして
音楽を聴いているのに
それでも聞こえるダミ声
ビックリした

 

とにかく一度通り過ぎた
そして止まった
すると後ろからまたダミ声が

 

「にぃちゃんって
ちょーこっち来て」

 

仕方が無いので僕はダミ声の所へ

 

そしてその主を見つけた
ちょっと待ってよ
また扇風機の一部じゃないか

 

 

「おぅ
にぃちゃん来てくれたか
ちょっとな床ずれ起こしててな
自分では動かれへんねん
すまんけどな
反対に向けてくれへんか」

 

僕は自転車を止め
扇風機下部のダミ声の位置を直した

 

「にぃちゃん
すまんのぉー
あー気持ちええわぁ
この時間はまだ過ごしやすいのぉ」

 

「そうですか」

 

「にぃちゃん
ええやっちゃから
わしの話を教えたろ」

 

「話ですかぁ
少しならええですよ
そんなに時間が無いから
短めにお願いします」

 

「よっしゃ
耳かっぽじってよう聞きや
一回しか言えへんで」

 

「はい」

 

「わしはな
こう見えても扇風機や」

 

「そりゃ見たらわかりますよ」

 

「しかしなぁ
肝心の扇風の部分がない」

 

「そうですね」

 

「せやろ
ほんならもうそれは
扇風機やあらへんやろ」

 

「はぁ」

 

「なんて呼んだらええ?」

 

「あなたをですか?」

 

「せや」

 

「まぁ強いて言うなら
扇風機下部じゃないでしょうか」

 

「ダサいこと言いよるわ
このにぃちゃんは
んなもん扇風ありきの
名前やないかえ
わし単品ではなん言うねん」

 

面倒臭いこと言うダミ声やで

 

「じゃ
じゃあ
なんだろう?
土台
とかはどうですか?」

 

「なんやそれ
もうええわ
そやろ
そうなんねん
扇風が無かったら
わしの存在価値がだだ落ちや
扇風はええのぉ
わしも昔は扇風の時も
あったんやけどなぁ」

 

 

 

「ウソでしょ」

 

 

「なんでじゃ?」

 

 

「なんでって
なんとなくウソっぽいから」

 

「まぁ
その通りや
ウソや
ウソはあかんで
ウソつくやつはろくなやつおらん」

 

「何が言いたいんですか?
僕もう行きますわ」

 

「ちょー
ちょーちょちょ
ちょー待ちぃーや
話はそれやないねん
これはあくまてまも
つかみや」

 

「そんなつかみはいりませんから
で何なんですか?」

 

「ええがなぁ
気持ちやわらいだやろ?」

 

「いえむしろ
その逆です
ちょっとイラってしました」

 

「しゃあないのぉ
若いのは
まぁええ
ほんならな
本題に入るわ」

 

「どうぞ」

 

「わしはなぁ
こう見えても昔はエッフェル塔やったんや」

 

「何を寝ぼけたこと
言うてはるんですか?
あれはパリに今でも
まだありますやんか」

 

「知っとるよ
あれは今わしの後輩がやっとる
座をゆずったんや」

 

「そんなシステムがあるんですか?」

 

「あるよ
でなその後はなアポロやったんや
知っとるか?」

 

「知ってますよ
でもあれいっぱいありましたやん
そのどれなんですか?」

 

「よう聞いてくれた
7号や」

 

「7号ですか
7号って何したんですか?
僕11号と13号しか知りませんわ」

 

「7号か
知らん」

 

「知らんって
7号やったんでしょ?
せやのに知らんって
またウソちゃいますのん?」

 

「ウソやあらへんで
ただな飛んで行く時に
バランバランされて行くから
ドンドン記憶が遠のくのは覚えてるわ」

 

 

 

僕はスマホで調べてみた

 

「アポロ7号
ありましたよ
今から46年前
アメリカの宇宙船で初めて有人で
地球を周回したモノらしいですよ」

 

 

「せや」

 

「せやって
今さっき知らんって
言うてましたやん
なんかホンマにイラってする」

 

「まぁ落ち着きなはれ
わしはなロケットやっただけで
そのミッションとかいうやつには
感知してへんねん
わかるか?」

 

「確かにそう言われたらそうですね
知らんで当然ですわ
で次は何やったんですか?
どうせまだあるんでしょ?」

 

「おっなんで分かったんや
これで最後にするさかい
耳かっぽじってよう聞きや」

 

「それはもうわかりましたから
でなんですのん」

 

「次はな
これになる前や
アポロ7号と扇風の無い機の間や」

 

勝手に名前決めてるし

 

「アポロの後ちょっと紆余曲折が
あってな
まぁモノの縁いうんかな
如意棒(にょいぼう)やったんや」

 

「如意棒?
あの孫悟空の?
なんや誰かと話が被る
よう似た話を聞いたことある
なんや?
だれや?」

 

 

僕は少し考えた
そして思い出した

 

 

「それ扇風機の前面カバーのおっさんが
筋斗雲(きんとうん)やった
言うのんと被りますわ
おっさんの事
知ってます?」

 

「知っとるわい
にぃちゃん知っとるんか
そら嬉しいわ
あいつ元気か?」

 

「なんや今は地球と
名乗ってましたよ
見た目は地球儀ですが」

 

「そうかそうか
そらええ
あいつは口悪いけどええやっちゃ
わしがなロケットやったって
話たっけ?」

 

「聞きましたよ
なに寝ぼけたこと言うてますのん
でそのロケットがどうしたんですか?」

 

「おぅそやそや
ロケットやった時な
わしのカラダがドンドンな
バランバランになっていってな
意識が薄れたんや
ほしたらな
そん時はもう宇宙におったんや」

 

「へぇー」

 

「でな宇宙のな
銀河のな意識の一部になったんや
スゴイんや
口ではようあらわされへんねんけどな
とにかく素晴らしいかった
でなそん時にあいつとは知り合いになったんや」

 

「そうなんですか」

 

「でな地球戻って
もう一回デカイことやろでぇ
って意気投合してな
で二人で地球戻って
わしは如意棒
あいつは筋斗雲
どやデカイやろ?」

 

「デカイというか
まぁ有名ではありますね
あれはやっぱり一休さんなんですか?」

 

「せやっ
猿ちゃうで」

 

本当だったんだ
前面カバーのおっさんに会ったら
あやまんなきゃ

 

「それはそうと
でどうして扇風機なんですか?」

 

「知らん」

 

「えっまた知らんのですか?」

 

「それがな
一休さんがな
筋斗雲のって如意棒持って
屏風(びょうぶ)の虎の絵と戦ってた時や
なんやボーンってなりましてな
ボーンとな
ほいで気付いたら
この始末や
扇風機なっとったんや」

 

「ホンマですか?」

 

「にぃちゃん
ウソもつきどころやで
こんなウソついてもしゃーないわ」

 

よく分からない理屈だ

 

 

「あいつもわしもビックリしたわ
っとまぁ
そういう話や
あいつ知っとったんは
予定外やったけどなぁ

 

オモロイやろ?
ウソちゃうで
うけた?
わろた?
あぁースッキリしたわ
もうええわ
あっち行って」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「いやもう話したし
終わったし
にぃちゃん急いどるんやろ?
早よ行きぃや
ほんならね
さいなら」

 

 

扇風機下部のダミ声はそう言うと
また元の路上のモノに戻った

 

 

 

ほな!

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