路上のモノ

フィルター

「路上のモノ」 その六

UPDATE : 2013/Apr/19
AUTHOR: 随筆家 ヤマヒデヤ

「路上のモノ」 その六

 

 

「乳母車」

 

 

僕の名前はベビーカー
あっ でも
僕的には乳母車って呼ばれる方が好きなんだ
好みの問題なんだろうけど
パパさんが持っていたカメラも
写真機の方が しっくりくる

 

きっとこれは僕を生み出してくれた町工場の社長がそういう人だったからかなぁ…
もうずいぶん昔のことなんで
忘れちゃったな

 

でも パパさんとママさんところに来たのはおぼえてるよ
夏の凄い暑い日だった
お腹の大きなママさんをいたわるようにパパさんと僕のいたベビーショップに入って来たんだ

 

最初はとてもゴージャスな乳母車を色々見てたよ
でも若い二人にはお金があんまりなかったのかな?
とうとう僕の前にやって来たよ
僕ってもう時代遅れで人気がなかったんだ
だからねセールになってたんだ

 

そりゃそうだろうね
何年も何年も売れずにそこにいるわけだから

 

とにかくパパさんとママさんはとうとう僕の前に来たんだよ
なんだか話してたな
パパさんはもっと良いのにしようって
でもママさんはこれで良いと

 

「これ」って僕のことだけどね

 

二人とも本当に楽しそうにお話してたな

 

そんなコトがあって
僕はパパさんとママさんのところへやってきたんだ

 

月日が経って
ようやく赤ちゃんを僕に乗せる時がきた
可愛いんだよ赤ちゃん
良い匂いなんだ
僕のお腹の上でスヤスヤ寝てるよ
その赤ちゃんもどんどん大きくなって
僕は必要じゃなくなったんだ
少しの間
休んだよ
でもまだちゃんとパパさんとママさんのところにいたよ
きっともう一人の予定だったんただろうね

 

そんなに休まず僕の出番は回ってきた
最初の赤ちゃんはお兄ちゃんになった
時々ママさんの真似をして僕を押してるよ

 

本当に楽しかったんだ
本当…

 

僕はどうやらその後
ママさんの知り合いところへ
もらわれた
そこのパパさんとママさんも素敵な方だったな
そして僕はまたよそのうちにもらわれて行ったんだ
もうその頃はベテランの域に達していたよ
六人目ですからね
赤ちゃんと僕にしかわからない言葉で会話したりあやしたり
楽しかったんだ

 

そして六人目で僕の仕事は終わった
まだ現役続行できたのに

 

そりゃ型も古いし使い込まれてるから
まっすぐ進まなくなっちゃってます
ちょっと左にそれるくらいだよ

 

でも もう貰い手はいない
そこん家のパパさんとママさんが僕も含め色々話し合ってるよ

 

最終的に赤ちゃんの洋服と共に僕はリサイクルショップに引き取られることに

 

僕は知らないワゴンにのせられて知らないところへ
赤ちゃんの洋服たちはそのまま降ろされ僕だけそのワゴンに取り残された
なぜなんだろう?
明日降ろすのかな?

 

眠くなったので眠ってしまった

 

どれだけ寝ただろう
今度はどんなとこへ行けるのかな?
リサイクルショップで頑張らないとね

 

目が覚めた
暗い
あれっ?
まだワゴンの中なのか?
あれれっ?
寒いよ
ここどこ?
お店じゃない
外だよ
なんで?
どうして?
なにがあったの?
僕は一人では動けないんだよ
誰か助けて
こんなとこにいたくないよ
僕が話せるのは赤ちゃんの言葉だけ
僕の横を車が通過して行く

 

なんだかスローモーションに見えるや

 

楽しかったなぁ
スーパーに行ったり動物園に行ったり本当に色んなところに行ったね

 

 

最初のパパさんママさん
ありがとう
次のパパさんママさん
ありがとう
そして
最後のパパさんママさん
ありがとう

 

 

 

ほな!

TIE UP PROJECT