FOOD AROUND vol.001 : お好み焼き編

UPDATE : 2014/Aug/03 | AUTHOR :

誰かと食べたくなるお好み焼き
そりゃぁ腕の良し悪しはあったとしても、だれでも小さい頃から慣れ親しんだ味は体に染み付いていて、
それが何かを思い出させたり、単純に好きなんじゃないかな、と思ったりもするんですがどうなんでしょうね。

その土地ならではの食材や調味料から生まれたもの、どこからか入ってきたもの、
気候や地理条件などの制約があるからこそ生まれた郷土料理なんていうものもあるだろうし、
身近なテーマであればあるほど、とても深い「食」のこと。

今回は、そんな暮らしにはなくてはならない「食」について、一つの料理にスポットを当てて少し考えてみようと思います。

まず第一弾に何を食べようか…いや、選ぶのかとても迷ったけど、ここは大阪。
大阪と言えば…で思い付く人も多いだろう、ということで、選んだのは「お好み焼き」です。

大阪ならずとも身近な家庭料理でもある「お好み焼き」。大阪風に呼ぶなら「おこのみ」。

でも実は、もちろん私も含め、ルーツなんていうものを知らない人も多いのかも知れません。

 

という訳で今回は、2013年10月16日に大阪北堀江にオープンした創作鉄板焼720の大将、内田氏にご協力をいただき、「おこのみ」を通して「食」についても色々聞いてみたいなと、行ってきました。

 

 

そもそもお好み焼きって、どうやって生まれたんやろ?と、少し歴史なんてものを調べてみようかなと思ったのですが、これがなかなか複雑にも見えてきました。色んな説があったり、それこそ地域地域でイワレも様々。

 

そんな中でも一番古いルーツとされているのが、時代を遡ること400年以上前になるんでしょうか、安土桃山時代。

 

茶会の茶菓子として、あの千利休が作らせていたとされている「麩の焼き」に辿り着きました。お菓子がルーツ?とも思いましたが、どんなものだったのかというと、小麦粉を水で溶かして薄く焼き、味噌を塗ってクルクルっと巻いて完成。中に芥子の実や砕いたクルミをいれていたものもあったのだとか。

 

この麩の焼きを元に、江戸時代末期から明治にかけて、味噌の代わりに餡をまいて作る「助惣焼き」が生まる。

「助惣麩の焼き」とも呼ばれていたこの助惣焼きは、「どら焼き」のルーツの1つとも言われているようで、江戸の麹町で生まれたそうです。これが東京、大阪で大流行したのだそうで。それがさらに変化し、明治時代に入ると東京ではおなじみの「もんじゃ焼き」に、そのもんじゃ焼きを持ち帰りに適した固さにした「どんどん焼き」が生まれ・・・と、時代と共にいろいろな姿に変わってきたんですね。

 

 

お好み焼きと言っても、例えば大阪を中心とする関西風と言われる混ぜ焼きのもの、広島風と言われる乗せ焼きタイプのもの、また関西でも兵庫県地域では広島焼きに近い「にくてん」と呼ばれる独自のお好み焼きがあったり…どんどん広く深くなっていきます。

 

お菓子からお好み焼きに…と考えると、そもそもいつから「お好み焼き」と呼ばれ、今の形で親しまれるようになったんでしょうね。

そんなことを考えながら江戸時代から明治、そして大正時代まで時間を進めていくと、次は「一銭洋食」の存在に辿り着きました。

 

 

一銭洋食については大阪発祥、または京都が発祥と、これも様々言われているようですが、大正時代の関西にて、水に溶いた小麦粉を薄く焼き、刻みネギなどをのせて焼いたものにソースをかけて売られていたものだそうです。当時は1枚一銭で売られ、これが今のお好み焼きに一番近いものであるとされています。その昔はソースさえかかっていれば何でも洋食とみなされていたとも言われていたらしく、なんとも関西らしい…と、ナニワ出身の私としては何故だかちょっと嬉しい気持ちになりました。

 

当時の一銭洋食を試作して再現してみました。|tie up repot FOOD AROUND vol.001

当時の一銭洋食を編集部にて試作再現してみました。

  

この一銭洋食、戦前は駄菓子屋の軒先などで食べられていた、子供達に大人気のおやつ的存在。戦後には食料不足を補う方法としてもてはやされるようになり、大人も食事として満足できるものへと様々なアレンジが加えられ、「お好み」で好きなものを何でも入れて焼き上げる現在のお好み焼きになっていったんですね。

 

 

そんなたくさんの歴史を経てきて現在、お好み焼きってどんな存在かなぁ、と考えてみました。

 

小さい頃はよく近所のお好み焼き屋さんに食べに連れていってもらったり、もちろん家でもよくテーブルを囲んで焼きながら食べたりしていたけど、大阪のど真ん中に住みながらも、近くにあり過ぎて意外とそこまでの思い入れはなかったような気もしてきたり。

 

 

 

創作鉄板焼720は、お好み焼きなどの粉もんを中心とした鉄板焼メニューが楽しめるお店。

自分の中のお好み焼きを考えていると、ふと大将の内田氏の「食」にまつわる思い出なんかも気になってきました。

 

もともとは関西の料亭で約10年間の修行を積み、日々日本料理に向き合ってきた氏。

今でも心に残る料理はおふくろの味なのだとか。

 

創作鉄板焼720のオーナーシェフ:内田氏|tie up repot FOOD AROUND vol.001

 

─── 内田氏:「うちのおかんはあんまり料理の得意な人ではなかったんですよ。煮物、たき物にしても基本は全部甘がらい味付けで、器に盛って出てきても色の濃い感じ。でもそれが“おかんの味”で、美味しいし、懐かしい。未だにエエなって思います。」

 

中華、フランス料理、イタリア料理など、様々なジャンルの料理を専門的に学び、のちに長い修行に出た内田氏。

作って食べるを何度も何度も繰り返しても、心から「旨い」と感じさせられたのは、日本料理だったそうです。

 

こうして厳しくつらい修業時代の話を聞くうちに、一つのエピソードが蘇ってきました。

 

─── 内田氏:「そういえば僕、気性の激しい子供だったんです。時期的なものだったんですけど、機嫌が悪かったらおかんが作ってくれたものを食べないことがあったんです。そんな時でも僕が進んで食べたのがお好み焼きでした。僕が機嫌が悪かったら、おかんは毎日でも焼いてくれるんです。僕、大好きだったんですよ。家では『お好み焼き焼こか?』ではなくて、『くちゃくちゃっと焼こか?』って言ってたことも懐かしいですね。」

 

心に残る食卓の風景。なんとなく情景が浮かぶようで、私もちょっと頬がゆるみます。

 

おふくろの味に毎日触れ、専門的に学びだし、そして迎えた料亭と呼ばれる場所での修業時代。

経験のない私でも、そこは戦場のように厳しい場所なんじゃないかなと想像してしまいます。

日本料理というものを突き詰め、最終鉄板焼に辿り着く・・・その過程には「料理」「食」というものに対して、自身の中でどのような変化があったのでしょう。

 

とある料理旅館での修業時代のお話を伺いました。

数多くの宿泊客に朝・昼・晩の3食を提供する。朝は6時から始まり、夜終わるのは遅ければ12時になることも日常的な毎日。一番勉強をさせてもらいました、と、内田氏の今の料理人人生にも大きく影響があったというこの場所で、自分が本当にやりたいスタイルも見つかったのだそうです。

 

創作鉄板焼720のオーナーシェフ:内田氏|tie up repot FOOD AROUND vol.001

 

─── 内田氏:「旅館だと僕達の仕事って“沖の仕事”って呼んでたんです。作ったものを仲居さん達がお客さんの所まで運んでくれますよね。食べ終われば、また仲居さん達がお皿を洗い場に返しに来てくれます。そうすると、どうしてもお客さんの顔を一人一人見ることができないんです。何を一番先に食べて、何が残っているのか。美味しかったのか、美味しくなかったのか、直接聞くこともできませんよね。そういうスタイルである以上仕方のないことだし、その場所でプロフェッショナルな方だってたくさんいます。でも僕は最後の『ごちそうさま』っていうゴールまで見届けたいって思うようになってきたんです。」

 

鉄板とカウンターの距離を見ても、その思いが伝わってくる気がしました。
目の前で繰り広げられる調理は、目で、耳で、匂いでも楽しめる。
あの『ジュウ~ッ』と鉄板の上で焼かれる音と、しばらくして立ち上るあの香りが届けば、カウンターの外からでも、自分のオーダーした物でなくても覗いてみたくなります。誰かが「美味しい」と言うとそれを食べたくなったり、旨い時のあの表情があちこちに散らばってく情景を想像させられました。

 

ところで、私は残念ながら“料亭”と言われるような格式のあるお食事処に行ったことはないのですが、高級感のあるイメージってありますよね。そこから家庭料理である「お好み焼き」を選んだのにはどんな理由があるのか少し気になってきました。

 

─── 内田氏:「どんな高級料理にしても“食べ物”と言う意味では一緒ですよね。それに世界中、きっと旨いもん食べて怒るような人もいないと思います。周りの人にも、『日本料理やってきたのにおこのみ焼いてたら勿体ないんちゃう?』って言われることがあるんですけど、じゃぁそのおこのみはマズいんか?って思うんですよ。それに、今までの日本料理での経験が意味のなかったものになるような仕事はしていませんしね。」

 

その名の通り、好みの具材をなんでも入れて焼ける「お好み焼き」

みなさんのご家庭でもうちはコレ!なんていうこだわりが、もしかしたらあるのかも知れませんね。

 

そんな創作鉄板焼720的「おこのみ」は「豚玉」だそうです。誰もが知る豚玉。関東では「豚天」ですね。どこのお店でも食べられる、それに家でも作って食べられる、そんな色んなお好み焼きの味と比べられる、言わば挑戦状的王道メニュー。

 

創作鉄板焼720のオーナーシェフ:内田氏|tie up repot FOOD AROUND vol.001

 

720的こだわりも教えてもらいました。

 

まずは出汁。

鶏ガラなどは一切使用せず、椎茸や昆布、カツオなどを使い、シンプルで透明感のある出汁作りから始まります。

 

そしてキャベツ。

これもお店や家庭ごとに色々な切り方があると思いますが、こちらでは千切り。キャベツの持つ甘みを最大限に引き出せるように、そしてたっぷりと空気を入れたあのふんわり感の為に。

 

次にトロロ。

たっぷりとおろしたトロロと出汁の割合は1対1。炭水化物と思われがちなお好み焼きですが、小麦粉の量は最低限に抑え、そして化学調味料も不使用。出汁や野菜からでる旨味や風味が最大限に生きてくるようにと、やさしい味へのこだわり。

 

そして豚肉。

宮崎ポークをメインにした国産へのこだわり。ブロック状のものを見ましたが、これをお好み焼きに?と思わずつぶやいてしまうような美しい脂。サイコロ状に四角く切り、表面を焼き目でコーティングすることで、旨味を逃さないようにします。こうすることで口に入れた時に、豚肉をしっかりと噛める。口の中に広がる国産豚の脂の旨味に気づいてしまう人も多いかも知れませんね。

 

混ぜ合わせる器は必ず陶器のものを。金属性のものではどうしても出てしまう金っけを考慮して、そしてキャベツなどの具材が急速に冷やされることで風邪を引いてしまわないように。

 

そして隠し味にはタマネギのみじん切り。

 

鉄板の上でまず豚肉にさっと焼き目をつけ、キャベツなど他の具材、出汁、粉などをスタンバイした器に戻し、豚の脂がパチパチと残る鉄板の上に静かに流します。ここからは返すまで触りません。今だ!というタイミングを目と耳で探ります。しばらくして返すと、またあの食欲をそそる『ジュウ~ッ』っという音。もう目の前の焼けている生地の部分からでもつまみ食いしたい…と思ってしまうような、こんがりとした焼き目を見るともう待ちきれなくなりそうですが、ここからも一切触らず、じっくりと蒸し焼きにします。

 

そして最後の返し。かけたソースが鉄板に落ちると香りも頂点に、お店中が満たされます。最後の最後にマヨネーズでキレイにお化粧して、外はカリッと、中はシフォンのようにふんわりとした720のおこのみが完成。大阪にはマヨラーが多いと勝手に思っていますが、きっと粉もん文化のせいだと、実は密かに思っています。

 

創作鉄板焼720のこだわりの豚玉|tie up repot FOOD AROUND vol.001

 

今にも鳴りだしそうなお腹を話し声でごまかしながらも、ふと思いました。

 

「家庭のお好み焼き」と「お店のお好み焼き」

プロから見てこの2つの違いは何なんでしょうか。

 

創作鉄板焼720のオーナーシェフ:内田氏|tie up repot FOOD AROUND vol.001

 

─── 内田氏:「多分ね、違いはないと思うんです。僕の奥さんもよく周りの人に『ご飯つくるの嫌じゃない?』って聞かれるみたいなんですけど、それってただ僕が料理に携わっているからなだけなんですよね。でもきっと…食べもんってね、人が作ってくれたものが一番旨いんですよ。食べもんを人に出してもらえるのって、おもてなしの原点でもあると思いますし。誰かが作ってくれたものなら、卵かけご飯だって嬉しいし、冷えたご飯をチンしてくれるだけでも、僕にはごちそうに変わります。勿論一人で食べるのも全然良いとは思いますよ。でも『これ旨いな!』って誰かと言い合いながら食べた方が旨さは倍増するし、うちの場合はその為のカウンターでもあるんです。料理の最高のスパイスは人。だからお店と家庭で考えたとしても、僕の中では何も違いはないです。それに実際、おかんのおこのみは未だに僕のより旨いと思いますしね。」

 

 

もちろん、取材後は美味しくいただきました。実は今まで何度かこちらで食べてきましたが、こんなお話聞くと余計に美味しく感じてしまいます。

家でテーブルを囲んで家族団らんでも、友達とパーティー感覚で一緒に焼いても、もちろんカウンターの向こうの鉄板のステージで調理されるのを眺めながら食べるのも楽しい、美味しい、お好み焼き。

 

色んな形に変わってきても変わらないことがあるんですね。

誰かと食べたくなるお好み焼き。

 

そうそう、大阪では「お好み焼き定食」なるものがあり、お好み焼きをオカズにご飯とお味噌汁が付いてくる、そんなメニューが普通にあります。私もそれはナシ…ではないのですが、個人的には「焼きそば定食」の方がおススメです。さらに言うと冷やご飯がいいんですが、これが良く合うんですよね。だってキャベツとソースとお肉や魚介。あ、もしかしたら合うんじゃない?なんて思いませんか?初めての方も、うどん定食感覚で試されるのもアリだと思います。

 

 

お腹がすいてきましたね。

皆さんの「おこのみ」は、どんなお好み焼きなんでしょう。

 

ふと食べに行きたくなる、そしておもてなししたくもなる幸せな料理。

720的こだわりを、ちょっぴり真似してみたくなりませんか?

 

創作鉄板焼720 NANIWA|tie up repot FOOD AROUND vol.001

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