UPDATE : 2015/Oct/01
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リッキーはビッグママだ。
亭主のマーヴィンは11年前に出て行ったきり戻ってこないけど、2人の娘とその弟をバスの運転手をしながら立派に育てて、つい2年前には長女のナンシーに孫が生まれた。
10mもありそうな大きなバスを操って、まだ見ぬ世界への幻想に身を包んだ旅人や出張にくたびれたビジネスマンたちを、リッキーはまるでディズニーランドの乗り物のように運んでくれる。
AVISからLAXまで、たった7分間の旅。
ロサンゼルスのレンタカーはどれもまるでゴルフ場のカートみたいだけど、それをかえしたあと、リッキーの運転するバスに乗って空港へ向かうと、だんだんカリブの海賊のように気になってくるんだ。
Hav’a nice day !
魔法の呪文のようなその言葉と、すべての不安を洗い流してくれるような大きな笑顔に見送られて、ぼくたちはTerminal6でバスを降りて(間違ってタケちゃんがTerminal4で降りようとしてリッキーに叱られたことは内緒だけどね)、フェニックスに向かうAA614便に飛び乗った。
ナンシーの旦那は真面目な男で、マーヴィンみたいに飲んだくれじゃないけど、マーヴィンみたいに、ある日突然いなくならなかったらいいのにと、ふと思う。
そうだ、次の週末には、家の前庭に噴水をつくろう。
最後の交差点を曲がるとき、誰もいなくなったバスを運転しながら、リッキーは少しうなずいた。