UPDATE : 2015/Nov/08
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海原のようにしか見えない空っぽの荒野に毅然とたたずみ、
繊細な詩人のように冷酷な靴や月のように冷たく光る鞄を、パリと同じように誇らしげに陳列しながら、決してそれを売ろうとしない孤独な彫刻。
PRADA MARFAと呼ばれるそのオブジェに、心の奥のわけのわからないところを揺さぶられ、船酔いのようになってしまったぼくたちは、ほとんどEmptyを指すガソリンメーターさえ見忘れて、やっとの思いでたどりついたのが、Van HornというI-10沿いの小さな町のChevronだった。
アルは、ぼくたちの前でゆっくりとガソリンポンプを元に戻し、車を降りたぼくに声をかけてきた。
ここは牛がぶつかって凹んだんだよ、もう10年も前の話だけどね。
錆だらけのFord F-150のタイヤハウスを指差しながら、日に焼けたアルが笑う。
荷台には大きな牧草用のフォーク。
若い頃にはきっとセニョリータを泣かせまくったに違いないイケメンのじいさんが働くRyan’s Ranchには、746頭のテキサスロングホーンがいて、その中に彼の顔を見れば必ず近寄ってくる雌牛が47頭いるそうな。
エルパソまでは121マイル。
すっかり馴染んだ銀色のDodge Rumを返して、フェニックス行きのAA5615便に乗らなきゃならない。
And if you give me weed, whites, and wine,
And you show me a sign,
I’ll be willin’, to be movin’.
こんなやさぐれたトラック乗りのうたを聴きながら。