路上のモノ

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「路上のモノ」 その八

UPDATE : 2013/May/07
AUTHOR: 随筆家 ヤマヒデヤ

「路上のモノ」 その八

 

 

「八百万の神」

 

 


山や川には色々な
神様がいて
人間とも仲良くしていた
いわゆる八百万の神である
人間も神を尊敬し
神も人間をいたわった

 

今は現在
神を感じるコトはほとんどなくなった
人々が山や川その他
色々なモノを尊敬しなくなってきたからだ
そこにはまだ神はいるだろう
しかしもう人間にはその神を感じる能力がほぼ無い

 

最近はそれでも神を感じたいのか
スピリチュアルなどの流行もあり
パワースポットなる観光地ができたりもする

 

そのような所に行かなくても
そこらじゅうに八百万の神は
存在しています

 

街にはアスファルトをしき
ビルを建て車からは排気ガスを出し
グレーの一色に隠してしまっているだけ

 

今は未来
もう街も排気ガスも人間もいません
熱帯のジャングルと砂漠が交互におりなす世界
そこには植物と昆虫と微生物
そして肩身のせまい小動物
以前
八百万の神と言われた神々が
今はそこかしこに集落を作り
ひっそりと暮らしている
穏やかに

 

今は昔
まだ街はありません
広い海と少しの陸地があるだけ
まだ八百万の神も生まれる前です
地球という神が太陽や月などの星々という神がいるにすぎない

 

今は少し昔
人間は八百万に神を宿し
神も人々に生きる知恵を与える
陽が昇れば
あるものは作物を育て
あるものは漁に出かけ
ささやかに暮らす
夜になって月が出る頃
一日が終わり就寝する
ささやかな毎日
年に数度のお祭り
この時は八百万の神と人間が
一緒になってお祝いをする

 

今は少し未来
もう誰も八百万の神のコトは
忘れてしまっています
すさみすぎたのか神を信じる
という概念がない
自分たちが得であるか
損であるか
そんな所で生きている
街は24時間動き眠らない
人の数はまばらだ
数カ所しかない都市を離れると
荒れ果てた土地があるだけだ
しかし
神はちゃんといる

 

今はいつ?

 

僕は道を歩いてると
道の真ん中に何か大きな白いモノを見つけた
あれはいったいなんだろ?
白い大蛇に見える
ゆっくりと近づく
はて
なにかしら?
あっ
わかったその瞬間だ
頭の中に声が響いた

 

「ようっ!」

 

ん?
誰だ?

 

「ようっ!わしを見てたじゃろ」

 

あっ
その声の主はアナタですか
ビックリするじゃないですか!

 

「すまん すまん
驚かせるつもりはなかったんじゃ
ちっくとわしの話を聞いてみんか?」

 

はぁ

 

「昔なここには川が流れとったじゃ
そりゃキレイな川でな
“泉水の川”と呼ばれよった
魚や亀それから大山椒魚なんかもおったがじゃ」

 

それっていつくらい前の話なんですか?

 

「ううぅーん
そうじゃのぉ
いつくらい前やったかいのぉ
だいぶ前じゃ
とにかくそんな川があったんじゃ
そこにはいくつもの集落があっての
みんな仲良うくらしよった
春と秋にはお祭りもあってな
その川で身を清めよったよ」

 

そうだったんですかぁ
でも無いですよね今は
どうしてなんですか?

 

「よう聞いてくれなさった
どんどん時は流れてな
その頃の人間はな自分たちの事しか考えられんようになっとったがじゃ
勝手に川幅をひろげて大きな船で色々と荷物を運ぶようになりよった
人や物の数が増えたからどんどん川も汚れていきよった
ほいでのぉ
勝手に川幅ひろげよったもんじゃから
雨の多い日はようはんらんをおこしよったんじゃ
それでの
その後なその川の近くに道ができてな
最初は荷車やったのが
時が経つにつれて
トラックゆうのがあらわれよってな
川には船がなくなってしもたんよ
ほいたらどうじゃ
人間にとってなんの役にも立たんのに雨がふったらはんらん起こす
迷惑な川
ゆうあつかいじゃ
そいでな
また勝手な人間どもは
川をすっかり埋めてしもうたんよ
今はご覧のとおり
道になっとる」

 

へぇ
そんなコトがあったんですね
でもなぜアナタがそんな話を知ってるんですか?

 

「おうっ
わしはな
わしはな
そん時の
“泉水の川”じゃ
あの頃の人間はわしをよう大事にしてくれた
八百万の神の一人としてな
しかしな今は川はない
じゃけどわしはずっとここにおるんじゃ
さみしいもんよ
だからの時々昔を思い出して
皆の前に仮の姿で登場じゃ」

 

仮の姿で登場じゃはいいですが
神様なのになんでわざわざそんな姿で

 

「神じゃから
紙とかけてみたんじゃ
面白いじゃろ?」

 

あんまり面白く無いです

 

「ほうか
残念じゃのぅ
まぁええ
今日はいきなり声かけてすまんかったの」

 

いえ別に

 

「アンタのウワサよう聞いとったでな
ほいで話しかけたがじゃ」

 

ウワサ?
なんなんですかそれは?

 

「おぅ
よく行く居酒屋でなちょいちょい会うのがおってな
名前は確か觔斗雲(きんとうん)とかゆうとったな」

 

えっ!
それって
ボロボロになった扇風機の前面部にあるカバーのおじん
やないですか

 

「まぁ」

 

まぁって
あのおっさんのお友達なんですか?

 

「友達ゆうか時々
その居酒屋で会うくらいかの
でそん時にお兄ちゃんのウワサを聞きよったわけじゃよ」

 

はぁ
なんと?

 

「あいつは話しかけたら
聞こえるタイプじゃと」

 

聞こえるタイプ?

 

「そうじゃ
わしらの声は昔の人間は皆聞こえよったが
今の人間はほとんどが聞こえんのじゃ
さみしい話じゃが
ほいでの
たまにはこうして人間と話したい時もあるがじゃ
じゃからの
わしもヤツから話を聞いて
お兄ちゃんをずっと待っとったがじゃ
おかげでスッキリしよったよ
ありがと」

 

そういうなりトイレットペーパーの神様は白竜のごとく空へ

 

とは行かず
そこにあるのだけれど
神様だけどっかに行っちゃったみたいです

 

僕は神様が消えそうな時にひとつだけ質問をしました
ボロボロになった扇風機の前面部にあるカバーのおじんも
神様なんですか?

 

「ちゃう」

 

それが八百万の神様との最後の会話でした

 

あの
ボロボロになった扇風機の前面部にあるカバーのおじん
意外に顔ひろいんやな
それからその居酒屋ってどこにあるんだろ

 

 

ほな!

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