INTERVIEW

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

UPDATE : 2013/Jun/17 | AUTHOR : makiko ueno

見透かされて生まれる、見た人が生み出すストーリー
関西から世界に向けて新たなムーブメントを発信するプロフェッショナルや、様々な場面で活躍するアーティストにスポットを当てたインタビュー。
第13弾は、グラフィックデザイナーを経て現在フリーイラストレーターとして活躍中の 玉村ヘビオ氏にお話を伺った。

────── これまでの経緯を簡単に教えていただけますか?

 

玉村氏:中学校を出てすぐ、印刷会社のデザイン室に入りました。夜にはデザイン学校に行きながら。

 

────── イラストレーターとして本格的に活動を開始し始めたのはいつ頃ですか?

 

玉村氏:最初の会社が9年間、次の会社で8年間勤めて、その後1年間他の所に手伝いに行ったりしていたので、フリーのイラストレーターとしては33歳くらいからです。会社に行ってる間も個展をやらせてもらったり、イラストはずっと描いていましたけどね。仕事としては時々あるくらいでしたけど。

 

────── 勤めながらも、独立は考えていたのですか?

 

玉村氏:考えていました。あたためていたと言うよりは、ずっと描いていました。絵を描いているのも小さい頃からの成り行き、惰性のような感じで。出来ることは他にそれしか無かったんです。当時は勉強の面白さとか楽しさも分からなかったし、スポーツも出来なかったから。

 

────── 本名は「玉村升一」さんとおっしゃるのですね?

 

玉村氏:一升瓶の“升”の字に一。お酒、そんなに飲まないのに、酒呑みみたいな名前でしょ?おかしいですよね、外見的にも…よく言われます。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── 2008年に改名されたと伺っていますが、何故「ヘビオ」というお名前に?

 

玉村氏:なんかサラーっとしたと言うか、普通の名前だったし、字の並びが縦と横ばかりでもの凄く書きにくかったんです。でも「ヘビオ」にする前から知らない間に周りの人達に「ヘビちゃん、ヘビちゃん」って呼ばれてたかな。その理由ははっきり分からないんですけどね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── お名前に“ヘ”も“ビ”も入っていないのに?不思議ですね。

 

玉村氏:そうなんです。だからもうそれでいこうって思って。それで後から付けた理由もあるんですけど、それは“トビオ”っていう名前からで。「鉄腕アトム」のアトムって、天馬博士の息子の生まれ変わりでしょ?その息子が飛雄(トビオ)って言う名前で、アトムの本名なんです。なのでそこから何と無く。手塚ファンなんでね。

 

────── 素敵な後付けだと思います。

 

玉村氏:濁点ってね、人の心を引っ掻くと言うか、掻き回す響きがあるんです。“ドラえもん”とか“ガンダム”とか、あんなキャラクターの名前なんかもね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── HPを拝見していて気になったのですが、お名前の横にある、あの扇のモチーフは何なのですか?

 

玉村氏:あれは玉村家の家紋なんです。おめでたい雰囲気がするでしょ?ちょっと芸人っぽいし。

 

────── 小さい頃に描かれていた絵も、動物などの生き物をモチーフに選んでいたのですか?

 

玉村氏:小学校の文集で、将来なりたいものは「昆虫博士」って書くくらい、虫や動物が好きだったんです。どっちが先か分からないんですけど、好きだから描いていたところはあります。描くのものもやっぱりそういうものばかりでしたしね。

 

────── 一つの作品を描き上げる時、一番好きな工程、瞬間はどこですか?

 

玉村氏:どこでしょうね。下描きの段階で、“コレ描こう!”って思う時が一番楽しいかも。正直なところ、作品に出来上がりはないんです。仕上がって個展なんかで飾っても、しばらく時間が経って改めて見ると、“まだやな”って思って直しを入れたり。出来上がる瞬間は、まず無いですね。

 

────── 初めてイラストを拝見した時、絵本の1コマを見ているような気分になりました。ストーリーのようなものを想定して描かれているのですか?また、そのようなストーリーはどんな時に生まれるのですか?

 

玉村氏:物語を作ってから描くことはなくて、ストーリーとタイトルは同時進行かな。いつも描きながらです。動物とか生き物のモチーフを選ぶのも、最近描いてる図鑑シリーズは明らかに“コレを描こう”っていうのが決まってるけど、絵本的な作品については、別に何を描くか考えてないです。こういう生き物にしようかな…とか、こんなシルエットの動物を描いてみようかな、っていうふうに。描いて見るたびに固めていく感じです。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── 以前から個人的にヘビオさんの作品に興味があり、時々HPのギャラリーを覗くたびに見る作品があります。確かタイトルは「ハオト」だったのですが。

 

HAOTO:HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

玉村氏:あれは2008年に東京で開いた「musica(ムジカ)」っていう、音とかミュージックをテーマにしたグループ展欄会の時の作品です。灯りの周りに蛾がいて、鱗粉が落ちてますよね。テーブルの上に空のお皿があるでしょ?あれは蛾が落ちてくるのを待ってるんです、それで食べるんです。

 

────── なるほど。そんなストーリーがあったんですね。見る人によって、また別のストーリーが生まれたとしても楽しいですね。

 

玉村氏:僕が決めても見る人の感じ方はそれぞれだし。1つの作品から色んな想像が生まれたり、僕のイメージとは別の物語が生まれると楽しいし、それがどんなのか聞きたいのもあるんです。

 

────── もう一つ、これはいつも印象的なのですが、登場人物や生き物達の目。目の前にあるものの、もう一つ向こう側を見ているような眼差しをこちらから見ていると、何だか見透かされたような、ドキッとすることがあるのですが…。彼らは何を見つめているのですか?

 

玉村氏:あれは意識してるんですけど、可愛くないでしょ?気持ち悪いと思います。あれは絵を見た人の内面を見ているんです。だから見透かされていたとしたら大正解。今はあまり考えてないんですけど、ずっと“神さん”をテーマにしていたんです。“神さん”って言っても形のない、自然崇拝とか、八百万(やおよろず)であるとか。基本的にあのひと達は、人間はどうしようもなく哀れで、愚かな存在だと思うような存在なんです。今も動物は人間以上の存在だと思って描いてますけどね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── 小さい頃、どこにでも神様がいる、そんなことを何気なく言われていたことを思い出します。台所やお風呂場、玄関や色んな所に。

 

玉村氏:子供の頃、特別にそう教えられたという訳ではないんですが、自然とそう感じていて、それがテーマでもあります。神さんと言うか、自然と言うか。

 

────── 作品を見た人に感じて欲しいところでもあるのですか?

 

玉村氏:そうですね。どこにでも神さんはいるから、みんな行儀良くして欲しいなって(笑) 色んな所で思いますけど、小さなことだとお箸の持ち方とか、何で電車でちゃんと座らんのやろ?とか…って、ちょっと違うかな?形のあるものだけを信じたり、信仰したりするのじゃなく、どこにでも神さんみたいなものがいるって思ってたら、ちょっとは変わってたかなって思うんです。…って、変な話ですけどね(笑) 今動物を描いてるのも、これは何でこんな形になったのか、とか思いながらであって。自然=神さんは不思議やなぁっていう意識で描いています。

 

────── ヘビオさんにとって描くことの意味や、魅力のようなものは何ですか?

 

玉村氏:特に描くことにこだわりはなくて、ただ自分が得意と言うか、楽しいものを描くだけで。だから絵でなくても、ものを作るのも楽しい。表現と言う程大げさじゃないけど、形にする手段は別に何でも良いと思っています。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── ヘビオさんが「玉村升一」をキャラクター化するとすれば、どんな動物?やキャラクターになると思いますか?

 

玉村氏:・・・砂、とかかな?あちこちをグルグルと。最初は岩で、それが細かくなってまた海に戻る。それから何かの拍子に山に戻って、また色んな所をグルグルと。

 

────── なりたい、また目指すイラストレーター像はありますか?

 

玉村氏:まだ頭の中に浮かんだものがはっきりと出力できないので、思い付いたらすぐ形にできるようになりたいです。

 

────── 作品に完成はないとおっしゃっていましたね。一度描き終えて、改めてその絵を見た時、何かが足りないと感じるのですか?

 

玉村氏:足りないこともあるし、位置が少しズレていたり。それは仕事でデザインっていうものをやっていたせいだと思うんですけどね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── 以前ブログで拝見した言葉で、“「無駄なこと」「どうでもいいこと」「余計なこと」を大切に、全力で楽しんでいきたい”これが記憶に残っているのですが、ヘビオさんのおっしゃる「~なこと」とはどんなことなのですか?

 

玉村氏:書いておきながら難しいんですけど、例えば「遊ぶこと」も「お酒を飲むこと」も、普通に生活する上で考えると無駄でしょ?お菓子に付いてるオマケも無駄、でも好きでしょ?そんな無くても困らないことを大事にしたいと言うか、楽しく過ごしたいなぁ、って思うんです。

 

────── もう一つあります。「Shippo」イラスト作品展(2010年10月 HANAREにて開催)での個展紹介にて… “残念ながら人間には尻尾がついていません。(途中略) ひょっとしたら人間が気付いていないだけで、動物はいつも私達にメッセージを送っているのかも知れません。それを聴き取ることが出来れば、化かし化かされていた頃の人間と動物の関係に戻れるような気がします。(そんなことを考えながら描きました)” これもとても印象的で…。この人間と動物の関係とはどういうものだとお考えですか?

 

玉村氏:その昔、自然と人間はお互いの分を守って生活してきたんじゃないかと思うんです。例えば、人里にクマが降りて来て畑を荒らしたとか、人を襲ったなんてニュースがあるでしょ?今なら完全にクマが悪者にされてしまいますけど、クマに対して「もともとはここはあんたのお庭だったのか。すんませんでした。」って、そんな考え方や対処が昔はできていたんじゃないかと思うんです。

 

────── 都会に住むと、そう感じることさえ難しそうですね。

 

こちらは「Shippo」作品展で出展されていた作品の一つですね。「世界尻尾撲滅協会」 このキャラクターは尻尾を切っていくのですか?

 

「ATEW」:「見透かされて生まれる、見た人が生み出すストーリー」HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

玉村氏:そう。そいつにも尻尾がついてますけど、それはダミーの尻尾。

 

────── 何故撲滅させるのですか?

 

玉村氏:これは人類の悪巧みなんです。“お前ら、内緒でコソコソ話しやがって…”みたいなね。尻尾は交信手段で、動物にとってはもの凄く大切なものなんです。

「Shippo」の次に開催した作品展が「Chain」っていうタイトルなんですが、食物連鎖のお話なんです。あれを辿って行くと、人間って自然の中のどこのサークルにも入っていないんです。だから地球上では害を与えてるだけかも知れない。今その場所に、地球に住まわせてもらってるっていう意識も足りないなぁ、って思います。

 

────── 私自身も時々考えて怖くなることがあります。好き勝手できませんね。もっと考えないといけない気がします。

 

玉村氏:野生動物を守ろうとか、助けようとか言うでしょ?でもそれっておこがましいんじゃないですかね。“可哀想”なんて言うのも、アレ、酷い言葉じゃないですかね。常に考えてるのはそんなところです。

 

────── ではヘビオさんは、人間はどうあるべきだと思いますか?また実践していることはありますか?

 

玉村氏:常に誰かに見られてると思って生活しています。誰かって言うのは「人」ではなく自然の中の「ひと」達。こいつは何言うてんねんやろって、また変な人って思われますね(笑) でも全部繋がってるんだなぁとか、何かに理由があるんだろうなぁ、って常に意識していて。例えばちょっと運の悪いことがあっても、“もしかしたらあの時のアレが影響してんのかな?”って思えば、自分も納得できるでしょ?

 

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────── あともう一つ気になっていたのが、独特の色使い。目から入って頭にずっと残るような鮮やかさ、またレトロな雰囲気もあると感じたのですが、カラーについては何かイメージされているものはありますか?

 

玉村氏:それも昔イメージしていたのが東雲(しののめ)、夜明けの時間帯のことですが、それをずっと描いていたんです。動物を描くにしても夜明けだったらこんな感じで見えるかな?とか、物語にしてもその時間帯の場面をイメージしていて。それこそ夜に動き出すものと、昼のものが入れ替わる時間かな。だからそれが残っているというか、鮮やかであったり、レトロな感じに見えたのかも知れませんね。

 

────── もしかしてなのですが…ヘビオさんは動物や虫と会話ができるのですか?

 

玉村氏:できませんよ(笑) できるといいなって、たまに思いますけど。でもそうなると作品も変わるでしょうね。それに、ファンの方が凄く偏ると思う(笑)

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── これはイラストレーションとは全く関係の無いお話なのですが。最近テレビなどで野生動物などを取り上げたシーンを見ていると、映像に流さない、隠すシーンがとても多くなったなぁと思っていたのですが。それに凄く違和感を持っていて…。

 

玉村氏:補食シーンとかでしょ?この前、僕も見ていておかしいなと思ったのがあったんですが、毒蛾の幼虫が繁殖しているから注意を促すニュースが放送されていたんです。でもその毛虫にモザイクをかけていたんですよ。それじゃその虫の種類も特定できないのに。あれは視聴者から「気持ち悪い」って苦情がくるんでしょうね。何かが変ですね。

 

────── 私自身、小さい頃は色々な昆虫を自宅で飼っていたのですが、足の節や羽、模様や動き、見ていて飽きませんでした。大型動物も含め、彼らは住む場所に合わせて変化・進化してきたのだと思うのですが、そう考えると一方人間は、知能以外はもしかしたら進化していないのかな?と思ったりも…

 

玉村氏:自然に対する耐性はどんどん無くなっていっています。人間以外の生き物への憧れもあるのかな?僕が何故動物が好きなのかの理由は、小さい頃で言うと格好良さっていうのがまずあって。あいつにはキバが生えてる、こいつには羽がついてる、そんなふうにね。

 

────── 動物以外の人物のキャラクターについてはどのような設定で描かれているのですか?

 

玉村氏:あれは人物じゃなくて、人と自然の合いの子なんです。妖精のような、ゴブリンのような。設定が全部神さんなんです。他にはもともとあるストーリーのキャラクターをモチーフに選んで描くこともありますけどね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

「雨子」(さめこ)さん:「見透かされて生まれる、見た人が生み出すストーリー」HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── そうなのですね。彼らは何かの使者なのですか?

 

玉村氏:目的はあります。静かに、ものも言わずに、人の愚かさを人に伝える感じかな。

 

────── このキャラクター達は、デザインとして考え出して描き上げるのですか?それとも普段の生活でヘビオさん自身が感じている存在なのですか?

 

玉村氏:勿論デザインとしての部分もあります。でも普段の生活の中で何気なく、こんな所にもこんなものがいるのかも、とは常に思っているので、それを描いている感じなんでしょうね。

 

────── では、描かれる動物や虫達も、神様という設定のものもあるのですか?

 

玉村氏:あれは神さんが作り出したもの。こんな過程や進化があると思うと面白いな、そう思って図鑑シリーズも作りました。

 

────── そうすると人間は神様が作ったものではない、という感覚になるのですか?

 

玉村氏:自分が神さんが作り出したものっていう意識は持ったことがないかも知れませんね。失敗作かな?あ、うっかり…って(笑)

 

────── もし本当に、人間は猿から進化して今の形になったとすれば、大昔、猿の状態だった頃は神様が作ったことになるのですか?

 

玉村氏:でもそうなると、動物園の猿も人間にならないと駄目ですが、ならないでしょ?だから全く別のものだったんじゃないかな?元々人間として生まれる、進化する、そういうラインであって。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

────── 描く動物選びに、何か基準はありますか?

 

玉村氏:それは見た目の好みかも。その好みのものと、デザイン化する時に少し色味が足りないなと思ったら、それを補えるものをプラスしてみたり。

 

────── 今一番描きたい動物は何ですか?

 

玉村氏:タテガミオオカミ。南アメリカなんかに生息していて、足が凄く長くて、奇妙で格好良い。描いてみたいですね。

 

────── ストーリーと絵を織り交ぜた絵本などは作ってみたりなさらないのですか?

 

玉村氏:やっぱり想像してもらえる方が楽しいかなと思うので、物語として完結させてしまうのはね。全く文章がないとか、見た人それぞれが思い思いの想像ができる形に仕上げられるんだったらやってみたいと思うんですけどね。偉そうなこと、言ってしまってますね。

 

────── 見た人が何かを感じたり、続きを想像した瞬間、初めてその作品が完結するのですね。

 

玉村氏:よく「どうだ、感動しただろ!?」っていうニュアンスの絵本があるでしょ?良いこと考えてるんですよ、って言ってしまうようなもの。あんなふうにはしたくないんですよね。

 

HEVIO TAMAMURA|INTERVIEW vol.13

 

 

玉村ヘビオ HEVIO TAMAMURA / Illustrator http://torinoco.com/

 

1971年生まれ 京都市出身 兵庫県在住
グラフィックデザイナーを経て現在イラストレーターとしてフリーで活動。
見た人が絵の続きや登場人物の性格など、いろいろと想像してもらえるようなイラストをこころがけております。

 

<INFORMATION>
□ほぼ日刊イトイ新聞コラムイラスト
□積水ハウス環境絵本
□リーバイスキャラクター
□ノートルダム小学校入学案内イラスト
□滋賀芸術会館サキラ 情報誌表紙イラスト
□阪急三番街ウィンドウギャラリーディスプレイ
□オーダーイラスト各種 etc..

編集後記

川に遊びに行っては、名前の分からない小さく茶色いバッタみたいなものを捕まえて持ち帰ったり、田舎に帰れば、庭にいる得体の知れない節足動物を一日中眺めていたり、鳥に食べられたくなくて、春先になるとミカンの木の葉についた卵を連れて帰って孵化させ、羽化させ、また空に返したり。

それでも飽き足らず、学校が終わると行きつけの汚く怪しい昆虫屋さんによく通ったりもしていた幼い頃の私。旬の食材ならぬ、その季節を生きる小さな生き物達がいつも自宅にいた。

一年中半袖で丸坊主の、クラスに一人はいる“昆虫名人”的同級生に負けないくらい、木に登り、草をかき分け、川で転び、生傷が絶えない女の子らしからぬ幼少時代だった。

何故自分の近くにそういった虫達を置いておきたかったのか、もしかすると理由はないのかも知れないが、変わった模様や人間には無い色、たくさん生えている足、美味しそうに葉や実を食べる一つ一つの動作に、気が付けば釘付けになっていた。

こちらが観察しているつもりだが、もしかしたら逆なのかもしれない、そんなとても不思議な感覚。
そんな小学生時代の記憶が蘇った。

「敷居を踏んだらあかん」「夜に爪を切ったり、口笛を吹いても駄目」「“~の神さん”がおるからそこでそんなことしてもあかん」他にも色々。
こんな迷信と呼ばれるようなことも、何気なく聞かされていた。子供心に、何故そんな形として見えないことを守らなければならないのかと訝しげに思うものの、時折見せる母のその姿、動作は美しくも見えた。

こんなことを思い出すと、当時と似たような、少しソワソワとした気分になる。

バレないのにどこか胸につかえる後ろめたさや後悔した記憶、そしてこうあるべきだと分かっているのにそうできない弱さや流されることの楽さ。

深いところにあるそんな目に見えるもの、ではないもの。

ふと立ち止まって美しい草木や命に触れ、感傷に浸る必要なんてないと思う。そんなことをしなくても、ゴロゴロとそこら中にあるもの。すぐ側にあるのに見ないフリすることに慣れてしまい、感じる力を無くしてしまっただけなような気がする。

もしそこに素直になることができれば、いつもの景色も違ったふうに見えるかも知れない。

はっと気が付くと、隣で“~の神さん”がこちらをじっと見ているかも。

by makiko ueno

Camera / toshinori cawai

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