INTERVIEW

TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

UPDATE : 2014/Feb/18 | AUTHOR : akiko taniguchi

植物と人間の関係性を、より良いものとして築きたい。
東京の西。埼玉県と隣接する東久留米市に「塩津丈洋植物研究所」はある。
代表の塩津丈洋氏は、電車とバスを乗り継いで、住宅街を縫うように伸びる緑道を抜け、
ようやく姿をあらわすアトリエで、植物の存在価値を見つめ直す活動を続けている。
現代では失われつつある、人間と植物の本質的な結びつきを一途に見つめる塩津氏にお話を伺った。

──────盆栽職人の元での修行を経て、現在は植物のお医者さんをされていらっしゃるわけですが、初めてWebサイトを拝見したとき、植物研究所のお名前とのギャップに少し意外な印象がありました。

 

塩津氏:うちには3才〜80歳くらいまで、幅広いお客さんがいらっしゃるので、あまりイメージを作りたくなかったんです。Webサイトのイメージで人を選んでしまいますからね。特に盆栽というと「難しいのかな」って、構えちゃう方が結構いらっしゃるんですよ。しかも東京の東久留米にある植物研究所なんて、なんか怖いじゃないですか(笑) そういうイメージを取り除きたくて、Webサイトにイラストを載せたり、フォントサイズも大きめにして読みやすくしています。

 

──────確かに植物研究所というお名前で、かっちりとしたWebサイトだと敷居が高い印象になるかもしれないですね。まずは、盆栽のイメージを変えたかったということですか?

 

塩津氏:そうですね。盆栽は日本が誇る伝統文化の1つで、関東では埼玉県にある盆栽町が職人の街として知られています。◯◯園何代目◯◯みたいに、代々仕事を継いでいく工芸のような世界。ただ、自分はもともと盆栽の家系でもなく、植物が好きという理由1つでこの世界に入りました。多くの人は職人を目指すのが盆栽の世界なんですが、自分の場合は、学べば学ぶほど、一般的に言う職人のイメージとは違う方向に、自然と向かっていったんですよね。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

──────今のお仕事のイメージが生まれてきたということですか?

 

塩津氏:はい。うちの一番のコンセプトでもあるのですが、もっと植物の魅力を多くの人に伝えていきたい、植物と人間との関わり方を考えたいって思うようになりました。

 

──────なるほど。そこで、盆栽だけではない植物との関わりも考えるようになったんですね。

 

塩津氏:盆栽に限らず、日本人と植物の関係性って素晴らしいんですよ。文献で言えば、最古の和歌集である万葉集や平安時代の絵巻物には、多くの植物の歌や絵が登場します。江戸時代になると、ヨーロッパからのプラントハンター達が植物調査のために来日しているのですが、その時に日本の植生に驚き「この国はなんて植物が豊かなんだ」と記しています。
国土面積でいうと、日本ってすごくちっちゃい。でも、その小さな島国に、これだけ豊かな植物の多様性があることにまず驚いて、さらに「この国の民族は、子供から大人まで、皆植物が好きで、誰もが育てる技術と知識を持っている。なんて文化的レベルの高い民族なんだ」って。

 

──────育てる技術と知識というと?

 

塩津氏:当時のヨーロッパでは、植物を楽しんだり育てたりするのは富裕層の人たちが多かったので、植物を楽しむ文化が日常生活からは少し離れていたんです。プラントハンターは、王族や貴族たちの楽しみとして、珍しい植物などを日本にハントしにきていたので、どこを歩いても、子供からお年寄りまでが鉢植えを持っていて、どこの家でも植物を育てていることにびっくりしたんですよ。

 

──────国によって植物との関わり方が全く異なっていたんですね。

 

塩津氏:そう考えると日本って、他の国と比べても類を見ないくらい植物が多い国ですし、関わり方や育てることに関しても、とても優れた民族だと思います。ですが、今の日本を見てみると、専門分野での植物の育成技術や知識は発展していますが、一般的には、植物との関わり方が薄れてきているというか、軽視されているというか、あまり良い方向には進んでいないように思えて。
だから、植物と人間との関係性を、より良いものとして築くための研究をする機関として、植物研究所という名前にしたんです。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

──────研究所とだけ聞くと、白衣とか着ているように思われそうですよね。

 

塩津氏:そう!だから別に顕微鏡を覗いているわけでもなくて、Webサイトのコンセプトにも書いていますが、「自然に触れ知ること まずはそこから始めてみませんか・・・」というところですね。
自分は、生まれが和歌山の新宮で、それこそ植物だらけの環境で育っているので、「なんで東京にいるの?」って聞かれることは多いです。特に、植物の調査などで日本各地の山や自然豊かな場所へ行くと、「植物が好きでやっているのに、なんで東京で?」って、不思議がられることもあります。

 

──────そのニュアンスは、何となく分かります。

 

塩津氏:でも、実を言うと、自分の仕事は東京にしかないかなって思っているんです。盆栽の修行を終えて、この仕事を始めようと思った時に、日本のどこで始めようかと一年かけて日本各地を歩いて探し回ったんですよ。いいところが見つかれば、そこに根を下ろそうかと。
仕事上、寒冷な北日本は難しかったのですが、東京から南下して、大阪はもちろん、沖縄から屋久島まで、日本の離島もたくさん廻りました。ただ、一番植物を求めている人が多い場所が、東京なのかなって感じたんですよね。
自分の生まれ育った場所では、未だに自然がいっぱいあるのが普通ですが、東京でワークショップを開催すると、土を触ったのが何年ぶりかっていう方もいらっしゃるんですよ。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────土の上を歩く感覚っていうのが、都会では身近にないですからね。

 

塩津氏:面白いというか、不思議なのが、鉢植えやプランターの植え替えをしたとき、都会では土を捨てる場所がないんですよ。あまり考えたことないと思うんですけど、土を捨てられないって凄いことで。ゴミ袋に入れて、燃えないゴミに出していいのかっていうと本当はダメですし、公園に捨てても怒られる。

 

──────本当ですね。それは考えたこともなかったです。

 

塩津氏:ホームセンターで土を買って植え替えても、植え替え終わった土をどうするかってなったとき、もう、どうしようもなくなっちゃう。単純な話のようで、不思議だなって。なかなか東京の都心部のように、人が多くて土が少ない環境では、育てることや、楽しむこと自体が難しい場合が多いんです。

 

──────そう考えると、都会での植物と人の関わり方は独特ですね。

 

塩津氏:そうですね。この植物研究所でも、2つの大きな柱として“植物の治療”“と“ワークショップ“がありますが、大前提として、植物というのは、末永く、ずっと育てていきましょうってことを伝えています。とはいえ、実は植物の治療っていうと、同業者からは笑われたりするんですよ、「仕事にならないだろ」って(笑)
普通であれば、修行が終わるとお店を開いたりして、職人として生きていくんですが、自分の親方もバリバリ現役だし、カッコいいなって思うお店は既にいっぱいあるんですよ。だから自分は、お店じゃなくてもいいのかなって思ったんですよね。自分ができることは何だろうって考えて、今の植物研究所になったんです。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

──────そこで別のアプローチを探るところが素晴らしいですね。

 

塩津氏:本当に意味のあることがやりたかったんです。伝統工芸でよく問題視されているのが、後継者がいないこと。植物も似ていて、管理方法を覚えて整えて育ててあげれば、何百年も生きるもので、息子へ、孫へと代々引き継いで育てていけるものです。それがいつの間にか“育てる”という感覚が薄れてしまって、枯れたらまた新しく買ってくるという扱い方になっています。植物たちって命があるのに、モノと一緒になっている感覚が、すごく怖いなって。
でも、植物をただ楽しむという意味では、いい時代なんですよ。値段も下がっていて、盆栽でも千円単位で買える時代になりましたからね。

 

──────そんなに安いんですね。

 

塩津氏:安いんですよ。しかも、どこでも手に入る。たとえば観葉植物であれば、100円ショップでも買えたりもします。子供から大人まで、多くの人が気軽に植物が買えて、お家で楽しめる時代になっています。
それは、ある意味では、緑が身近で豊かになったかもしれない。でも、豊かさの意味が変わっていると思うんですよね。豊かさの基準が人間寄りというか、植物にとってはどうなんだろうかと…。植物にとっては悲しい時代が訪れているんじゃないかと思っていて、それを打破したいという想いが、研究所を始める最初のきっかけでした。
そこでも、まずは何ができるかなって考えたときに、売るのをやめようと思って、基本的には植物には値段をつけないようにしています。

 

──────販売はされていないんですね。

 

塩津氏:売ってないです。色んなブランドやお店から、販売や委託の依頼を一日に何件もメールや電話でいただくんですけど、基本的にはお断りしています。お花屋さんではないのでね。でも、こういうこと言うと、また同業者から「またお金にならないことやってるよね」って笑われますけど(笑)
正直、植物の治療を始めたときは、最初の1年間なんて全然仕事もないし、地域の人からは、この人なんなんだろうって目でみられていましたね。今5年目なんですけど、2年目くらいからですね、ちらほらお客さんも増えてきて。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────やっぱり植物の治療を求めていた方たちはいらっしゃったんですね。

 

塩津氏:今は園芸書だけでもすごい部数ありますし、インターネットで検索すれば、いくらでも見つけられます。でも実際のところ、なかなか正解には辿り着けない。というのも、実は植物の育て方というのは、全部正解で、全部間違っていると思うんです。
それは単純に、植物は喋らないから分からない。植物が喋るっていう方もいますし、もちろん概念としてはあって、言わんとしていることは分かります。葉っぱが落ちたり、根っこが枯れることで合図を送ってくれるんですけど、やっぱり、人間の分かる言葉では喋ってくれません。書かれている本の内容も、育成の成功例の経験談が基になっていたりします。この時期に植え替えて剪定したら、上手に育ちました、水はこうしてあげたら元気になりましたって。

 

──────では、同じ対象の植物でも、書く方によっては違う内容なんですね?

 

塩津氏:違いますね。だから、植物を詳しく調べようとすればするほど、どんどん分からなくなるんですよね。植え替えだけでも、人によっては12月に、別の人は1月に、また別の人は11月にという感じ。しかも、極端な話をすれば、同じ情報を沖縄の人と北海道の人が見て、同じ時期に植え替えたら、どちらかは枯れますよ。単純な考え方です。だから、ちゃんとした育て方って、なかなか分かりにくいんです。

 

──────何を見たら良いのか、分からなくなりますね。

 

塩津氏:もちろん、大きなズレはないですよ。お水をあげることや土に関しては。ただ、ちょっとずつ配合が違ったりするんですよ。あとは、植物も生き物なので、植え替えや剪定の時期はデリケートになってきます。例えば、冷え込んでくる11月は、落葉樹の剪定にはいいですが、常緑樹には向かないとかね。
植物に興味がある方は、インターネットでも本でもすごく調べるんですが、先程お話したように、色んな情報がありすぎて、そういう方ほど分からなくなってきます。そんなときに「気軽に相談できる場所ってないのかな」って思っていた方は、やっぱりいたんですよね。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────植物のことを気軽に相談できる場所って、これまで聞いたことなかったですからね。

 

塩津氏:生き物のなかで病院がないのって、実は植物からなんですよ。植物が大好きな方は、愛情をかけるレベルで言えば、犬や猫ともそんなに変わらない。朝早く起きてお水をあげて、葉っぱも綺麗にして、すごく愛情をかけて育てています。でも、調子が悪くなった時に、気軽に植物の相談ができたり、診てくれる場所がなかったんです。
ご神木などの管理をされている樹木医さんや、他にも植物を診る方たちはいらっしゃるんですけど、「今日はなんとなく植物の調子が悪そうだな、ちょっと相談したいな」って気軽に訪ねられる場所がなかったんですよね。

 

──────なんで今までなかったんでしょうか?

 

塩津氏:日常で身近に植物を目にして触れ、手に入れる場所ってお花屋さんになると思うのですが、売ることが先行してしまって、相談や管理する場所が追いつかなかったのだと思います。お花屋さんも、なかなか勉強する時間もないですから、仕入れた植物のことが分からない方たちも結構いらっしゃるんですよ。本当は、どちらも一緒に進まなくちゃいけなかったんですよね。
あと、病院がない一番の要因は、ビジネスとして成り立ちづらいこともあるんだと思います。
今は、そういった懸念を少しでも解決するために、一般の方やプロのお花屋さんたちに向けて、植物の育て方により詳しくなってもらうためのワークショップを開催しています。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────ワークショップは、こちらのアトリエでも開催されていらっしゃいますが、どういった方が参加されていますか?

 

塩津氏:アトリエで定期的に開催しているワークショップは、盆栽を作るというよりも、植物に詳しくなっていただくための内容で、参加者は、男性よりも女性が多いですね。盆栽以外でも、観葉植物が好きな方や農業をされている方もいらっしゃいます。
あと盆栽では、店舗のディスプレイの装飾を見て、興味を持っていただくことも多いですね。ただ、販売はしていないので、そういう方にも「一度アトリエに来てください」って言っちゃいます。そうすると、みなさん電車とバスを乗り継いで来てくださいますよ。

 

──────熱心な方も多いんですね。

 

塩津氏:やっぱり意識の高い真剣な方たちっていらっしゃるんです。ワークショップに参加して、まずは植物のお話を聞いていただく。それから土から自分で作って、根っこも見て、剪定も自分でする。できたものを大切に割れないように包んで、お家に持って帰る。この一通りの流れを経験するだけで、植物との接し方が変わったと言ってくれる方もたくさんいらっしゃいます。
ただ、このような活動自体も、実は決まっているわけではないんですよ。もっと、植物とのより良い関わり方があれば、新しい方法をどんどん実践していきたいと思っています。自分のことを職人だとも思わないので、名刺にも肩書きは何も書いていません。強いて言えば、植物を触っている人ですかね。植物が好きで、植物のことをもっと多くの人に知ってもらいたい。好きだからこそ、植物をちゃんと扱ってあげたいのに、今そういう人が少ないなって気付いて。だから自分が、その立場の人間になろうって始めたんです。

 

──────来年の今頃は、もしかしたら全く違うことをされているかもしれませんね。そこも含めて楽しみですが。

 

塩津氏:そうですね。捉われずに、時代によって柔軟に変わっていくと思います。どんな仕事でも、言われたことだけを続けていても、意味がないと思っていますので。今いる場所から一歩出て、やらなければいけないことに加えて、やるべきことを探して、新しいことに挑戦して、次に繋げることができて、初めて育つんだと思います。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────今のお仕事を続けるなかで、自然に対しての使命感のようなものはありますか?

 

塩津氏:今はありますね。最初は植物や自然が好き、というだけでやっていましたが、続けていくなかで、好きだからこそ自分がやらなきゃと感じるようになっています。
植物を育てる仕事をしていると、やっぱり植物って自然のままがいいのかなって思ったときもありました。盆栽も、「窮屈なところに入れて可哀想なんじゃないか」って言われることもありますし、自分も、一度そこに行き着いて植物を全く触らなくなったときもありましたよ。

 

──────自然のままと考えると、葛藤になりますよね。

 

塩津氏:そう、すごい悩んじゃってましたね。もともと盆栽は、植物をより身近に楽しむために、山や自然の景色を器の中に再現したもので、成り立ちとしては人間の欲求や願望から生まれたものでもあります。ただ、それを植物が望んでいたかと言うと、分からない。でも今の自分なりの答えは、昔から、盆栽も床の間に飾って愛でる楽しみ方があるように、人間が植物を身近に楽しみたい、生活を共にしたい、と思う心は本能的なことなんじゃないかなって思うんです。
人間って、多分植物がないと生きていけないんですよ。光合成をして酸素を作ってくれてとか、そういった生物学的なことよりも、植物と身近に触れて楽しむって、やっぱり心のゆとりや助けになることがたくさんあると思うんです。
先程もお話しましたが、江戸時代は、園芸がすごく栄えた時代でした。今、自然が少なくなったから、仕方なく身近なお家の中で植物を楽しんでいるのかっていうと、そうではない。自然が豊かな時代から、日本人は植物を植えて、お家の庭やお店の中に飾って、文化的に植物を身近で楽しんでいたんです。そういう民族なのだから、育てる側の私たち人間も植物のことを分かってあげて、ちゃんとした育て方で接してあげる。お互いが歩み寄って、共存していけたらいいなって。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

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──────治療では、どんな植物でも診られるんですか?

 

塩津氏:どんな植物でもやります。うちには、色んなお客さんがいらっしゃいますからね。小学生くらいの子が、100円ショップで買ったサボテンを一個持って、「この子枯れそうなんです!」って、100円で買ったサボテンを治すために、何千円か握りしめて来たり。あとは、盆栽好きの祖父が亡くなって「このままだと祖父の遺した盆栽が枯れそうなので、育て方を教えてください」とか、色んな方がいます。
でも、分からないときは、「初めて触ります、分かりません」って正直に言いますよ。分からないことを「できます、分かります」って言ってお金をもらおうとは思わないです。命だから。たまに、なんでも分かる植物のプロだと思われているので「なんで分からないんだ」って言われますけど(笑)

 

──────プロじゃないですか!(笑)

 

塩津氏:いや、だけど、分からないですもん!(笑) だって、世界には園芸種だけで何百種もあって、さらに毎年新種も出て、それを全部網羅するのは人生あと50年生きられたとしても無理ですね。分からないときは、「詳しい人に聞きますね」って電話しちゃいます。専門のプロの仲間はいっぱいいるので、そうした繋がりで助け合っています。
ただ、分かることは何でも引き受けますよ。観葉植物からサボテンまで。新しいジャンルの植物の相談が来たら、自分で職人さんや専門家の方を探して、お客さんに紹介することもあります。見捨てることは、絶対にしないですよ。最後まで責任を持ちます。

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

──────塩津さんのところに治療にくる植物たちで、都会特有の病気のようなものはありますか?

 

塩津氏:ありますよ。まずは排気ガス。それと日当りですね。庭がなくてベランダで育てる場合は、一日数時間しか日を当てられないし、ヘタしたら窓が開かないお家もあります。あとは、密閉性が高すぎる。隙間風がないから、風が通らなくて枯れてしまうこともあります。現代の枯れ方ですね。昔の日本家屋は隙間風だらけだったので、家の中に植物を置いても枯れにくかったと思います。

 

──────ある意味、植物の現代病みたいな感じですね。

 

塩津氏:そうそう。今は、植物を買いたくても買えない、手に入らないという時代ではない。どんな環境でも購入することはできますが、本当の意味で植物と暮らしていければいいですよね。せっかく家に連れて来た植物が枯れてしまっては、人間も植物もお互い悲しいですからね。

 

──────それは、もともと自然が身近にあり過ぎたせいでもありますよね。

 

塩津氏:そうですね。身近に当たり前にあるからこそ、その大切さがそこまで意識されなくなってきたんじゃないかと思います。どのような育て方をしても、植物は動物のように唸ったり啼いたりしないですからね。
ただ同じ命だとしても、例えば、屋久島の屋久杉は、何千年も生きている天然記念物だから大切にしましょう。明治神宮の大楠はご神木で神様が宿っているから、大切にしましょう。だけど、お家にあるチューリップは、枯れてもまた球根を植えればいいよねっていうような、人間の道徳観だけで分けられている命の価値の部分ってあると思うんですよね。人間の怖いところだなって思います。

 

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──────お話を聞いていると、まさに今の時代に必要なお仕事だと感じます。

 

塩津氏:でも植物を育てる技術は、本当は本能的に誰もができることで、むしろ教えてもらうことでもないんじゃないかって。多分もともとみんな、自然の中に生きていたら分かることなんですよ。
日本は植生が豊かで、文化的にも植物と密接した習慣がある園芸大国だと思うので、日本人だからこそ、植物を育てるのって向いているんだと思います。もうちょっと自然に目を向けたら、日本って、この世界って、もっと豊かになるのかなって。今の仕事で、植物を通じて、一人でも心が豊かになる人が増えたらいいなって思うんですよね。
だからこそ、先程もお話したように、今とは別のアプローチでもっと良い方法に気付いたら、すぐに方向性を変えるでしょうね。持っているものは全て手放して、また一から始めます。いつも鞄一個にして再出発してきました。だから、過去のものはほとんどないですよ。

 

──────その瞬間って怖くないですか?

 

塩津氏:いや、全然!楽しくて仕方ないですね。家も引っ越して、場所も変えて、全部手放しますね。多分、本当に必要なものって一部なんですよ。だいたいは手放すのが怖いから、取っておきたいんです。でも、そういうものがなくなると、本当に動きやすくなりますよ、人間って。それは自分のやり方ですけどね、一回真っ新になった方がいいですよ。やっぱり人間だから、たまに後ろを振り返りたいときってあるんですよ。そりゃあ今まで培ってきた場所の方が、居心地が良いですからね。やっぱりこっちの方がいいかなって迷いや甘えが生まれるんですよ。でも、その時後ろに道がなかったら、前に進むしかない。その方が自分には合ってますね。
新しく始める時も、別に背伸びしていいものを使う必要はなくて、その時の自分に見合ったものでいいと思うんです。自分だったら、盆栽鋏でしたね。良いものを選ぼうと思えば、1本何万円もする盆栽職人御用達の鋏もありますが、自分が最初に買ったのは100円ショップの鋏でしたね。その時は、それが自分に見合った鋏だと思ったので。

 

──────この世界に触れたのが初めてだったので、とても興味深いお話ばかりです。

 

塩津氏:植物って本当に、素直なんですよ。水が足りなかったら、すぐに葉や茎に合図を出して、そのままのことを言ってくれる。人間だと、本当の心の部分ってなかなか分からなかったりするんですけど、植物っていうのは、それがストレートに出る。この仕事は、植物と一緒というか、真っ直ぐな気持ちにならないとできないですね。そうするには、やっぱり、不要なものは手放して、必要なものだけを身の回りに残していく、シンプルな生き方の方が良いんじゃないかって。時間にしても、植物と同じタイミングで生きた方が良いなってよく思うんです。朝5時くらいに起きて、夜9時くらいに寝た方がいいんですよね。ま、東京で仕事があると、そういうわけにはいかないんですけどね(笑)

 

塩津丈洋植物研究所 代表 TAKEHIRO SHIOZU|INTERVIEW vol.16

 

 

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塩津 丈洋 | SHIOZU TAKEHIRO

塩津丈洋植物研究所 代表

 

<INFORMATION>

塩津丈洋植物研究所 | www.syokubutsukenkyujo.com

〒203-0032 東京都東久留米市前沢5-29-18

TEL. 042-475-5381

Mail. info@syokubutsukenkyujo.com

営業時間. 11:00 - 20:00

定休日. 木曜日

編集後記

東京の都心でありながら、緑に恵まれた環境で育った。植物や自然が好きな祖父母や両親のお陰だ。
庭には四季折々の草花があり、旬を感じる果実が実る。ほとんど手も入れずに育つ果実は野性味溢れる味わいで、甘味よりも酸味や渋味が勝っていて、幼少期の私にとって、それは決して美味しいものではなかった。

それが当たり前ではないと気付いたのは、実家を離れた18歳の頃。
草木の色づきや花々の彩り、果実の実りや鳥たちの囀り、虫や小動物たちの鳴き声など、五感で感じていた自然との繋がりが、都会のアパートに住んだ途端、驚くほど感じられなくなったのだ。

気付けば、休日には近くの公園や、都心から離れて自然を感じる場所へと足を運んでいた。実家にいた頃には、徒歩数分の圏内に都内でも有数の公園がありながら、ほとんど足を運ぶことがなかったにも関わらず。

それは、年齢を重ねることでの価値観の変化もあるだろう。
そして、大都会で育ちながらも、自然の素晴らしさを何をするでもなく示し続けてくれていた、両親からの教育だ。

豊かさの価値観というものは、ある程度、年齢的にも精神的にも成熟していく必要があるし、それまでに培われた教育やモラル、育った環境が多大に影響を与える。
これまで大都会でしか暮らしたことがない私は、24歳くらいの頃“豊かさ”に躓いた。
頭では理解しているはずの、信念にも近い“豊かさ”の価値観に心がついていかず、実際の行動が伴わなかったのだ。

そこで、まずは身近な習慣に、少しだけ変化をもたらす意識を加えてみた。

いつも歩く道を、少しだけ目を凝らして歩いてみたら、小さな草花の存在に気付くことがある。
コンクリートの割れ目から顔を覗かせる草花に、私たちは強い生命力を感じるはずだ。
ビル群に阻まれ四角く切り取られた空も、時々刻々と変化を続け、太陽や雲、雨や風の恵みを教えてくれる。
恐怖すら覚える美しい夕焼けの日には、ソーシャルメディアは、様々な角度から撮影された夕陽で溢れている。
お花屋さんがあれば立寄り、お気に入りの花を選び、お気に入りの花器に生ける。
それだけで、いかに暮らしに彩りを添えてくれることか。

日本は、緑が多い国と言われ、先進国のなかでは緑被率も2番目に高い。
自然という、とてつもなく偉大な教師は目の前にいる。塩津氏が話すように、まずは自然に触れてみることで、多くの学びや気付きの機会が得られる。

そこから、植物や自然とどう付き合っていくのかを、伝聞ではなく経験から、そして先人から学び、次の世代に何を伝え遺すのかを、それぞれが考えるべき時期にいるのかもしれない。

by akiko taniguchi

Camera / toshinoriCawai

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