INTERVIEW

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

UPDATE : 2013/May/19 | AUTHOR :

“バカ”がいないと、面白いものなんて出てこないんですよね
関西から世界に向けて新たなムーブメントを発信するプロフェッショナルや、様々な場面で活躍するアーティストにスポットを当てたインタビュー。
第12弾は、神戸元町にて ヴィンテージ絵本とコレクターズアイテムを集めたお店「Fabulous OLD BOOK」代表の村田 智氏にお話を伺った。

────── これまでの経緯を簡単に教えていただけますか?

 

村田氏:元々は東京にある洋絵本の出版社で営業をしていたんです。でもその会社の社長が亡くなって、会社もなくなってしまったので、これからどうしようかなぁって考えていたんです。昔からアメリカの古いものが好きで、アメリカに叔母がいたこともあってよく行き来はしていたんですが、それでアメリカにも紹介されていない絵本が眠っているっていうことを知ったんです。それならそんな絵本を紹介する店を日本で初めてみようかな?と思ったのがきっかけとしてあって。
僕は神奈川出身で、出版社時代も東京にいたんですが、その出版社の直営店が神戸の夙川にあったんです。関西を営業で回る時は夙川を中心に動いていたんですが、“あぁ、神戸って結構面白いなぁ”なんて思うようになって。始めるまでにお金を貯めるのには時間がかかったんですが、やるならいっその事神戸に来てしまおうかと思って、2000年12月にオープンしたんです。

 

────── 馴染みの土地から拠点を関西に移されたんですね。

 

村田氏:神奈川も東京もそうなんですけど、何か始めたらブーム的に捉われておしまい、それが嫌だったのもあるんです。なんかね、僕は関西の方が気に入ったんです(笑) 東京はペースが早過ぎて、自分が好きなことをじっくりやろうとした時には向かないのかな?と思ったし、自分が好きな場所でやってみたかったんです。

 

────── そんなふうに関西を見ていただけると嬉しくなります。

 

村田氏:いや、でも多分、みんな来たことがないからだと思いますよ?関東の方からもお客さんが来てくれるんですが、一度神戸に来るとみんな好きになってくれて、次からまた来てくれますし。大阪も東京の下町と感覚が似ていてオモシロイんです。でも東京は下町以外はどうも、ショップにしても大手が多いし、移り変わりも激し過ぎてあまり…。

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

────── 絵本だけでなく、カルチャーなどを含めたアメリカの古いもの全般にお好きなんですね。そういったものに興味を持つきっかけのようなものはありましたか?

 

村田氏:1980年代くらいかな?僕らの時に第3期ロックンロールブームがあったんです。最初のブームは50年代、次はキャロルなんかの70年代。その後の第3期のブームの時にアメリカ文化が好きになったことと、やっぱり叔母がいた影響が一番強いと思います。

 

────── 初めてアメリカへ行かれた時のエピソードを教えていただけますか?

 

村田氏:1974年かな?小学校一年生の夏休みで、1ヶ月間アメリカの叔母の家に泊まりにいったんです。当時叔母のところはガソリンスタンドを2軒経営していてリッチだったんですよ。大きな家で、地下にはビリヤードが置いてある、庭の前には湖があってそこを手漕ぎボートで渡って小さな島に遊びに行けたり。時代的には70年代だから音楽で言うとカーペンターズなんかの時代でしょうけど、50年代や60年代の良い部分がまだあの頃も残ってたんじゃないかな。あの時の印象が一番強いので、もし叔母がいなかったらアメリカの古いものに興味を持たなかったかも知れないですね。

 

────── 映画のワンシーンのような光景ですね!そんな体験をされたのなら、今でもその印象が鮮明に残っているハズですね。

 

村田氏:アメリカに叔母がいることは知ってましたけど、まだ子供だからよく分からないじゃないですか。親に「叔母さんとこ行くよ」って言われたから「どのくらいいるの?」って聞いたんです。じゃあ一ヶ月間、って言うもんだから「近所の友達と遊べないから嫌だ!」って言って泣いたんです。でも帰りには「帰りたくない!」って言って泣いて(笑) 未だに覚えてますよ。子供の頃、そうやってアメリカ文化を感じたんですが、向こうは物質的に豊かですもんね。このお店も基本的にはアメリカの子供部屋にあるものを集めている感じなんですがね。良い時代のアメリカっていうものを表現したくて。

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

────── 1940~70年代頃の古い絵本をメインに扱われていますが、特に“絵本”にスポットを当てられた理由などはありますか?

 

村田氏:本に関しては元々はどちらかと言うと、写真本やビジュアル系のデザイン本のようなものの方が興味があったんです。なので昔からそういう洋書屋さんにはよく通ってたんですが、ゆくゆくは英語を使うような仕事に就きたいと思っていて。それでたまたま僕が入れたのが洋書の絵本を扱う出版社だったんです。そこでね、一番最初に気に入った1冊がうちにもあるんですが。「Make Way For Ducklings」(Robert Mc Closkey作 1941年 邦題「かもさんおとおり」)っていう絵本なんです。カモさんに道路を渡らせてあげる為にみんなで協力するっていうお話なんですが、カラーもないし、単調なお話なんですね。でもこれだけで十分にアメリカの良い時代を表現してるんですよね。

絵本のそういうストレートな表現も興味を持つようになった理由でもあるでしょうね。その中でも40~70年代初期までに絞っているのは、アメリカの出版社が当時多くて、紙質も良いし、良いインクを使っていたから今は出せない色彩であったりもして、一番贅沢にものを書けていた時代だと思います。ベトナム戦争が始まってからは全部ダメになってしまいましたが、それまではアメリカが豊かだったから、海外のイラストレーターもアメリカで出版されているものが多いんです。そういうのも面白いですね。

 

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────── 他の時代の絵本にはない、この年代の絵本が持つ魅力はどのようなものですか?

 

村田氏:アメリカの絵本に関して言うと、一番特徴的なのはコミュニケーションの大切さを表してるものが多いです。色々な国から人が集まってくる移民の国なので、ストーリーの中では動物を擬人化してコミュニケーションを表現している内容のものが多かったりします。後はジョン F ケネディがそうでしたけど、1950年代後半からアメリカも宇宙開発に乗り出すので、宇宙を描いたものも多かったりします。移民の国だけあって、それだけ色々なものが一番集まってきてるんでしょうね。東洋を描いているものもあればヨーロッパ風のものもあったり、それぞれの視点で色んなバリエーションがあるのも面白さですね。

 

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────── 絵本に表現されている登場人物や世界観は、当時のリアルなアメリカそのものであると思いますか?

 

村田氏:そうでしょうね。僕は今のアメリカはあまり好きじゃないんですよね。犯罪も多いし、自信を無くしてしまっている感じもありますね。憧れるのは昔のアメリカです。

 

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────── 内容も勿論ですが、当時のファッションを見ていても楽しいですね。

 

村田氏:そうですね。ファッションだと通信販売用のカタログなんかを見ていても面白いんですよ。例えばMONTGOMERY WARD(モンゴメリーワード)やSears(シアーズ)。このsearsのカタログだと、中に注文書が付いたまま残ってるんで、「注文したら届くかな?」なんて言ったりもしてね(笑) 50年代のファッションを例に挙げると、ピンクx黒やグレイのカラーでアーガイル模様が入ってるシャツやジャケットなんかが、ヴィンテージ好きやこの年代が好きな人に人気の、当時を代表するデザインの1つでもあるんですが、実は当時も一般に売られていたものじゃないようなんです。ハリウッドの高級店や百貨店で売られていたものだから当時も高かったし数も少なかった、だから今もあまり出てこないんじゃないかと思います。そんなこともこのカタログを見て分かったり。アメリカは国土も広いから、昔は通販がメインだったんでしょうね。田舎の人はこれを見て注文してたんじゃないかな。

 

────── 有名なデザイナーズと呼ばれるような絵本以外をメインにセレクトされているのですか?

 

村田氏:例えばグラフィックデザイナーのポール・ランド(Paul Rand 1914-1996)のような有名な人の本っていうのは、モダン美術系の本屋さんなんかで昔から扱われているので、僕としてはあまり意識して入れてなかったんです。どちらかと言うとマイナーで、今まで日本に入ってきてないようなものを探すようにはしています。結局情報なんて、賞を取ってるようなものしか分からないし、海外の専門店に行っても扱うものはだいたい限られてるんですけどね。だったら1軒1軒細かく探そうかなって。

 

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────── とってもコアな品揃えなのですね。お店の中でも掘り出し甲斐がありそうですね。

 

村田氏:皆さん流石に有名なところは知ってらっしゃいますけど、それ以外はそんなに幅も広げないと思うし、あまり知られてないですからね。でも探せば探す程今はないものがあるし、知られていなくても良い本があるから。だからやりだすと奥が深いです。日本の場合は絵本って言うとまだ子供だけのものっていうイメージが強いですが、もっと美術的分野や、大人にも理解して欲しいところはありますね。僕が思うのは、音楽と一緒で、開いてみて読めなくても充分楽しめると思うんです。そんな楽しみ方が日本人もできたらなと思うんですけどね。別に読めなくても色を楽しんでみたり、興味がある人は辞書を片手に調べたり。絵本だったらそんなに難しくないですからね。

 

────── 時代背景やストーリーを想像してみたり、他にも色々な楽しみ方がありそうでわくわくしますね。

 

村田氏:仕掛け絵本にも面白いものがありますよ。ポップアップのようなもの以外にも、透かして見ると文字が浮かんでくるものとか、描かれている絵がページを開くことで不思議な動きをするものなんかも。この「HOPIE」っていうバッタの絵本も良いですね。これは今じゃ無理があるだろうと思うんですけど、仕掛けのバッタがページをめくるごとに次のページをバチンと叩くように飛び出してくるんです。ページの最後の方は手動でないと動いてくれないんですけどね。こんなの、子供がやったら絶対ボロボロになるでしょ?そんなこともあまり考えずにね(笑)

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

────── 細工も日本のものとはまた違ったユニークなものが多いんですね。取り扱い商品を見ているととても良いコンディションのものが多いと思うのですが、子供が読んでいた本だと実感させられるような痕跡が残るようなものはありますか?

 

村田氏:1つよく思うのがね、日本は少ないけど、宗教本以外のものに関して言うと落書きが多いんです。それもいつかプロになれるんじゃないかと思うくらい上手いのが。現地の子供を見ていても思うんですが、日本は本に落書きなんてしたら怒られるでしょ?でも向こうは、その子にあげたらもうその子のものだから怒らないと思うんです。その子がその本の中の世界を想定して書いてるんだなと思ったら、これも愛嬌かな?って許せてしまったりもするんですけどね。ただ、時々凄く貴重本にやられることも(笑) もう一つ多いパターンがあって、1900~40年代のアメリカの本って、印刷上の関係で片方だけカラー、もう片方が白黒のイラストっていうのがあるんです。そうすると、そのカラーじゃない方に見事に色を塗られていたり。やってくれますよ…(笑)

 

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────── 本の中の世界を想定したような落書き。商品としては切ない気分にもなると思いますが、子供ならではの純粋な遊び心や発想そのものが当時を写し出している、そんな発見もありそうですね。

 

村田氏:そうですね。“もの”については、ベトナム戦争、その後のオイルショックなんかの影響で、それ以降アメリカ自体が豊かではなくなってしまったから、遊びの部分が少なくなって、良いものが出てきづらくなりましたけどね。アメリカ人とやり取りをしていて思うんですけど、彼らは相手が正しいことを言ったら必ず認めてくれるようなフェアな人達なんです。それは今でも感じられるんですが、みんなが希望に溢れていた昔のような明るさは今はないですね。歴史の浅いアメリカであれば、黄金期の50’s文化や、その後に出てきたドラッグカルチャーやピーター・マックスのような人物、そんな自分達の国から生まれたものは彼らの自慢なんです。だから評価が高くて値段も高い。

 

────── 私個人的には好きなものや興味を持ったものの歴史を掘り下げて行く作業が好きな方なのですが、まだまだ足りなさそうです。

 

村田氏:時代を追っていくんです。こんな時代だから、それを背景にこんなものが生まれたんだとか、そこまで分かった上で扱わないといけないと思うんです。だから僕は自分が好きな時代のアメリカ絵本しか扱えないんです。

 

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────── お好きだとおっしゃっていた時代と同年代の日本に関してはどう感じられますか?

 

村田氏:日本はもう少し後、昭和30~40年代の高度成長期が一番面白いでしょうね。働けば働く程豊かになっていくあの時代。そんなにリッチじゃなかったけど、楽しい時代だったんじゃないかなと思うんです。

 

────── “もの”の豊かさと言うよりも気持ちの面での豊かさなんでしょうね。その点では現在どう感じられますか?また、どうすれば心の豊かさを感じることができると思いますか?

 

村田氏:気持ちの面では停滞してしまっていますもんね。みんな将来に不安があるから、それが改善しない限り気持ちも豊かになっていきませんよね。日本もようやく資源が見つかったなんて言ってるけど、何年先に活用できるか分からないし。そうすると自動車のような機械産業なんかが海外に向けて売っていかないと駄目なんでしょうけど、それでもいつまで経ってもアメリカは越えられないですよね。でも日本は日本で良い文化がありますからね。ハワイアンにも見られるように、昔の神社仏閣なんか見ていても綺麗ですもんね。僕は和洋折衷も好きなんですけど、海外の良いものを取り入れてミックスする、日本人はそれでいいと思うんです。
あと、特に若い子達に言うんだったら、気持ち的には楽天的に、あまり深く考えないことじゃないですか?理由があって出来ないなら別ですが、例えば20歳くらいで保険掛けて、貯金してなんて言ってるけど、いつ死ぬか分からないんだから、自分がやりたいことをできる時にやれば良いと思うんですけどね。

 

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────── 将来への不安から守りに入ってしまうのでしょうね。色々挑戦してきて、同時に失敗を重ねてきた私が言うのも何なのですが、失敗しても良いと思うところもありますけどね。

 

村田氏:だから僕も、このお店がもし駄目になってしまったとしても、また1からやれば良いっていつも思ってます。みんながみんな堅い仕事に就く、それじゃつまらないですもんね。僕らの時代でも言われてたんですが、“バカ”がいなくなってると思うんです。賢く立ち回る、ズル賢いヤツばかりが目立って、それで良いんだって風潮もあったりしますし。でも“バカ”がいないと面白いものなんて出てこないんですよね(笑)

 

────── 買い付け先でも印象に残るエピソードがあれば教えていただけますか?

 

村田氏:本屋を始める前なんですが、テキサスのアマリロっていう場所にあった古本屋さんでのことなんですけど。たまたま見つけたそのお店に入ったらね、ジムさんっていう白人の店主さんが、黒人の女性とワルツみたいなダンスを踊っていたんですよ。何してんのかな?って思いつつも、絵本を探してることを伝えたんです。じゃあお店の奥にあるよって教えてくれて。その絵本の本棚の上には、別にアンティークじゃない最近の中国製っぽいダンプカーなんかのおもちゃが置いてあったんですけど、ジムさんが本を探してる僕に、「お前、子供の本探してるのか。子供の本はコレクターズアイテムだからな。」なんて話しかけてきたと思ったら、「このダンプカー良いだろ!この前フリーマーケットで買ったんだ!」なんて全然関係のないことも言ってきたり(笑) 買い付けではだいたいロサンゼルスのダウンタウンに泊まるので、怪しい人は見慣れてるけど、面白いなぁなんて思ってたんです。

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

結局2~30冊くらい選んでカウンターに持っていったら、分厚い児童書のプレミアムランキングが分かる本を持ち出してきて、僕が選んだ本に付けられた値段と見比べだしたんです。「あ、コレは高いな。100ドルはするな。」なんて言い出すから、ちょっと変な人だしもしかしたらボルつもりなのかな?って思って。アメリカ人と交渉する時は絶対に引くなって言われてたから、もし変なこと言われたら「バカにするな!」って言って帰ろうと思ってたんですけど。でもそこでね、僕が日本で絵本屋さんを始めようと思ってることも話していたんです。勤めていた出版社がなくなっちゃうから、良い時代のアメリカ絵本が紹介されなくなってしまうこと、だからお店をはじめたいことをね。

 

そうするとジムさんが「10ドル」って言うんです。「1冊10ドルか?」って聞くと「全部で10ドル」って言うんです。「お前、日本に帰って本屋始めるんだったら金が必要だろ?」ってね。元々東洋が好きだったみたいで、どこからか日本のものを色々集めてたようで…ピンクレディーのポスターも買ってたな、どこで見つけてくるのか(笑) ちょっと間違った日本好きなんですけどね。結局いつも思うのは、アメリカに行って絵本を探すのは勿論なんですけど、“昔のアメリカ”であったり、“リアルアメリカン”本当のアメリカ人に会いたいっていうのもあるんですよね。

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

────── そんな素敵な出会いがあると思うと、やめられませんね。

 

村田氏:そんなこんなで今でも付き合いがあったり、仲良くしてもらってますけど、それでもやっぱり差別的なこともあるので、全部が良いことではないかも知れませんね。古着が好きだから最初古着屋をしようと思った時は辛かったですよ。「またデニム買いに来たのか。日本人、買い占めやがって。」みたいにね。僕、デニムに興味ないのに(笑) 僕らもそうだけど、次の世代の人達が昔の文化をどういうふうに理解してくれるのかを、古いものが好きな人達と話したりもするんです。ものが無くなってきてるから仕方無いところもありますけど、若い人達の間では古いものも新しいものも関係ないと思ってる人が多いみたいですね。でもこんな時代に、こんなに価値のあるものがあるっていうことを理解してもらえないのは残念ですね。

 

────── これらの絵本を通して、何を感じて欲しいと思いますか?

 

村田氏:ゆっくり時間が流れているような本が多いから、手にした時間だけでも、いつもみたいに急かされたり焦ったりしないで、気持ちの余裕みたいなものを感じて欲しいです。時代に流されないで、楽天的に考えられるように。でも文化的なものって解りづらいですよね。興味を持たなかったら、それで過ぎてしまう。美術的な分野と一緒なのかも知れないですね。

 

Fabulous OLD BOOK SATOSHI MURATA|INTERVIEW vol.12

 

村田 智 SATOSHI MURATA / Fabulous OLD BOOK 代表 www.fobook.com

 

Fabulous OLD BOOK

1940~70年代にアメリカで発行された絵本を中心とした雑誌、雑貨、コレクターズアイテムのお店。

 

<INFORMATION>

〒650-0011 神戸市中央区下山手通4-1-19 西阪ビル4F

TEL 078-327-7883

OPEN 13時~20時 / CLOSE 毎週水曜日

編集後記

少し手を伸ばすと何でも手に入る程、“もの”については近くに、いつも側に溢れている。昔々から現在を見ると、当時想像していた以上に、本当に豊かになったんだろう。そして物質的に豊かになったから、なってしまったことが、“豊かさ”というものを考えるきっかけにも繋がったのだろう。

時代背景や置かれた状況、文化など、様々なバックグラウンドがそれぞれにあり、まして“豊かさ”なんていうものに答えはなく、一人一人の価値観や、もっと気付かないくらい近くにある自身の心の持ち方にもよるものだろうとは思うが、では豊かさを実感しだした頃の昔と、もっと豊かになった現在では、何が変わったのか。

数々の歴史を経験し、貧しさから豊かさを求め毎日を必死に生きてきた時代、そこには今と変わらない人が持つ欲求があったハズ。しかし、求め続けると終わりが見えないその欲求を持ちながらも、人間同士の関わり合い、そして“自分”というものを確実に持っていたのではないかと思う。

少し街を歩くだけでも、ぼーっと電車に乗っているだけでも目に飛びこんでくる、また生まれた、また始まる新しいものやこと。もはや処理できないくらいの情報が飛び交い、その中で選ぶべきもの、本当に自分が求めるものを探すことを忘れてしまっているのかも知れない。

少し色あせた、紙のいい匂いのする絵本を開くと、柔らかな色彩、人や動物の無垢な表情や仕草がページを刻む。読み進めると、何故かどこか切なく懐かしく、ほんの少し時間が止まっているような錯覚を起した。

一度頭を空っぽにして、自分を見つめ直してみようかな?そう思うと、分かっているようで目を向けていない、自分を取り巻く世界も再確認できたような気がする。

ゆっくりと流れる、絵本の中の時間に少し浸かってみる。

今頑張って手に入れることができる高価なものより、贅沢なものなのかも知れない。

by makiko ueno

Camera / toshinori cawai

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