ハニカミ写真館|REPORT vol.17 後編
UPDATE : 2014/Jun/07 | AUTHOR :
books+kotobanoie店主 加藤氏率いるハニカミ軍団が再び集まる、秘密の会議に潜入した。
ー編集会議ー
5月9日夜遅く、仕事を終えあるサテライトオフィスに集まったハニカミ軍団。
この日は白衣を脱いだメンバー。
疲れていてもおかしくないハズなのに、むしろこれからの作業を今か今かと楽しみ待つ様子が、目を見れば分かる。
「お疲れ様です」と、ちょっとした挨拶を交わしつつ、淹れたてのコーヒーが行き渡り全員が席に着くと、外は暗いオフィスの空気が一変した。
縦に3枚、横に4枚並んだベタ焼きが1組につき1枚。
あの日の12カットが6組分、テーブルに広げられた。
これから投票が始まるのだ。
どのように進めていくのかと気になっていると、ディレクターの蓮池氏がメモ用紙に何やら書き始めた。
それはあの日の被写体となった6組の名前。
ハニカミ軍団4名にそれぞれ配られた。
左上から1番、2番、3番、隣の列の上から4番、5番・・・
自分が「これだ」だと感じた1枚の数字を名前の下に記入していく。
「う~ん」「これかな?」「でもこっちもあの人らしさが」「・・・・・」
おもわず口をついて出てくるそんな言葉が、静かなオフィスにぽかんと浮かぶ。
全員がそれぞれの唯一を決めるまでにしばらくかかった後、加藤氏の「はい、何番?」で1人ずつ発表が始まった。
4名がほぼ全員一致で1枚が決まることもあれば、みんながバラバラのこともある。
すっきり決まっても面白いが、みんながそれぞれ違うカットをあげた時もまた面白い。
「表情とか構図、ピントもそうだし、まず最低限のところでジャッジ」と言う2代目カメラマンの多田氏。
「完全に構図、あとはポーズも大事」と語る玉村氏。
「例えばよく撮られ慣れてる人だったら、今までにない表情や雰囲気で撮れてるものかな」と話す蓮池氏。
それぞれが真剣に、時には写真に顔をこすりつけるように近付け吟味する。
「見るたびに分からなくなる」と、でも誰よりも楽しそうにつぶやいた加藤氏。
「あの時の現場の空気感と、その人のありのままが出ているものかな?でも奥さんが一番。」と言い、また写真の中を食い入るように覗く。
実は私も、「見たらあかん」と言われるのかと少しドキドキしながら、こっそりすべての写真を細目で覗き込んでいた。
そして私もそれぞれの唯一を、心の中で「◯番」と聞こえないように叫んでいた。
メンバーの誰かと同じことも数回、でもそれが議論の中でもちろん却下になったりもする。
その時はハニカミ軍団の一員でもないのにちょっと悔しくて、でもその選ばれたものを見ていると、それで良かったと思えてきたりもした。
そうして眺めていると、じわじわとあの撮影日を思い出す。
空が高く、お日様が少しまぶしい撮影日和。
葉っぱが風で揺れるときらきらして、眩しいけど空を見上げたくなった。
最初は緊張していた撮影待ちの皆さんも、あちこちで何やら楽しそうに話し始める。
手元にまだ写真が届いていないのに、「また撮りたいな」なんていう声も聞こえてくる。
まだ出来上がっていないたった1枚が想像させるあの日と、これからなのか。
自分の写真のように大切にしたい気持ちになるようだった。
思わず一度番号を口にしてしまったが、あれこれ話が進むうちに一番悩ませた1組がようやく決まり、ほっとした表情をみせる4人。
この日の会議はここまで。
日を改め次に待っているのは、発送作業だ。
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ー発送作業ー
編集会議からしばらくたった5月27日。
それぞれが忙しい毎日を送るハニカミ軍団が、再びサテライトオフィスに集合した。
「とりあえずお茶を飲んでからにしましょ。」
加藤氏が前回同様、メンバー全員に淹れたてのコーヒーを配る。
夜のお疲れさまのほっと一息、でもどこかソワソワした雰囲気にも見えたのは、きっと目の前の封筒が気になっていたからだと思う。
モノクロ専門ラボ・STUDIO5の勢井氏の手によって1枚1枚丁寧に焼き付けられた銀塩プリント。
あの日、議論に議論を重ねて決定された唯一との初めての対面だ。
正直、やっぱりあの写真の方が良かったんじゃないか?なんて思っていたメンバーもいたような気がする。(私自身かも知れないが)
でも唯一として出来上がってやってきたそれをデスクに広げ、もう一度1枚1枚眺めると、「やっぱりこれだ!」と、説得力さえ感じさせられるようだった。
「さぁ、始めましょうか。」
再び加藤氏の一言で、ここからは手慣れた作業が始まる。
玉村氏お手製の二つ折りの黒のマットに、自身がコーナーを貼り写真を差し込む。
その横でマットと同じ黒い紙に、時々何かを覗きながら白い鉛筆でしたため始める加藤氏。
何を見ているのかと気になっていたのは、写真に添えるメッセージの下書きだった。
郵送先の住所を封筒に直接ペンで記していく蓮池氏。
初めての発送作業現場となる多田氏は、そんな一連の流れを観察しつつ、切手を貼る。
全てがメンバーそれぞれの手で行われる。
ただただアナログな流れ作業、というよりは、流れ手作業。
最後に封筒に入れ、封をするまでのその動きを忙しく目で追いかけるだけで、とてもあたたかな気分にさせられた。
1時間程で全ての作業が終わり、翌日の投函を待つずっしりとした封筒の束を見つめると、全員の顔がほころぶ。
喜んでもらえるかな?そんな、少しはにかんだ表情にも見えた。
大切な誰かに送る何かのプレゼントのように、気に入ってもらえるか少し不安でドキドキするけど、早く渡したい。
そんな気持ちだったのではないかと、今思い出しても胸がきゅっとなる。
撮影から1ヶ月と少し。
もうそれぞれが被写体となった6組の手元に届いている。
待ちに待った1枚との対面でどんな気持ちになったのかな?と、私までソワソワするし、「うわっ!」と笑顔がこぼれたのなら嬉しい。
自分のために、大切なあの人のために、今を見つめ未来に残す本当のポートレイト。
かたちとして残すというその一連の現場は、レンズの向こうにあるたくさんの幸せのかたちを想像させてくれた。
次回のハニカミ写真館は、7月下旬の開催を予定。
前回同様、1日6組限定の撮影会。
予約待ちの人も多いとのことだが、気になる方はお気軽にお問い合わせを、とのこと。
次はどこで、誰がはにかむのか。
きっといつかの初夏の、誰かと誰かの、忘れられない思い出となるだろう。
ハニカミ写真館
Equipment : Hasselblad 500CM / Carl Zeiss Planar T* 80mm/F2.8
Film : Kodak Professional T-MAX400 TMY120
Paper : ILFORD MG4FB 8X10
personnel is 加藤 博久 / 多田 ユウコ / 蓮池 亜紀 / 玉村 ヘビオ
produced by BOOKS+コトバノイエ(www.kotobanoie.com)