第5回 木村家本舗 REPORT
UPDATE : 2014/Nov/03 | AUTHOR :
この秋の移動祝祭日の3日間を直撃するかもしれないという予報は、
大人達のお祭りに向けた熱のようなものが呼びこんでしまったものかもしれない。
下町の長屋をリフォームした木村邸で、オープンハウスと古本屋をやってみようということでスタートした「木村家本舗」も今年で5回目。
古本屋のみならず、期間中は様々な展示や催しが開催されるのだが、今年も初日午前の開始から多くの来場者が駆けつけ、賑わいをみせた。
人様のおうちの玄関に控えめに立てかけられた小さな看板を目印に、初めての人はきっと、少し戸惑う。
恐る恐る玄関を入るとまっすぐな廊下、そのサイドには数多くの本が整然と並べられていた。
この瞬間から木村家本舗は始まっている。
様々な展示が各部屋で行われていたが、目の前の本棚を横目に、落ち着いた色の照明に誘われ左の和室に進むと「素にもどる(モトニモドル)」というタイトルの作品展がある。家具工房CARULA主催 神原慎一氏の作品が、赴きのある静かな一室に展示されていた。
木工というものを志し、携わり、10年目の節目の年。ようやく自分が最初に思い描いていたものを少しずつ形にすることができるようになったと話す神原氏。そんな原点、スタートに戻るという思いから生まれた“素”の作品群。何も考えず、その小さな空間を正面から眺めると、色や手触り、そこにあることで生まれる空気がゆっくりと体の中に落ちてくる。部屋の向こうの賑わいも一瞬忘れ、すっと深呼吸したくなったあの感覚が今でも鮮明に思い出される。
もと来た場所に戻り、本を手にする。
ゆっくりと眺めていると、すぐ向こうからガヤガヤ、ワイワイとした声と、いい香りが漂ってくる。本を棚に戻し中庭を覗き込むと、この日の為に各地から集まった様々なショップの店主が、フードコートで慌ただしくオーダーをさばいていた。それは夏のお祭り屋台のような、文化祭のような光景にも似ていた。人の家の庭であることは、きっともうこの頃忘れてしまう。思いがけずここでかなりゆっくりしてしまいそうになるが、見所はまだまだ残っている。
庭の木の葉がそよそよと、外の光が柔らかく広がる階段を登ると、リビングルームではもう一つの作品展が開催されている。
MIFUNE DESIGN STUDIOデザイナー美船安利氏による「Yasutoshi Mifuneの巣」だ。
それぞれの環境に合わせ、自身で運べる物を使い様々な「巣」を作る鳥達。それは生まれ・育てる為に必要な場であるから。今回のインスタレーションは、そんな鳥達が見せる法則に出来る限り従い、会場となった木村工務店の資材置き場にある木材と、自分一人だけで運べる自身の作品を「置くだけ・積むだけ」といった構成で生まれた一時的な仮想空間。
ほんのりと照らされた一室の別世界は、「KAKINE」という同じ形の白い紙を組み立て構成した100%紙のパーティションが一際目を引く。そこでは訪れる人も巣を作り、鳥になる。たった3日間という短い間、そんな一瞬の儚さと美しさの中で、それぞれが新しい何かを生み、羽ばたいて行った。
そして今回の様々な展示の中でもう一つの目玉だったのが、加工場ギャラリーで開催された「えっちこうむてん」
“岡本太郎美術館”や“PANTALOON”などで絵画作品を発表してきたアーティスト、笹倉洋平氏によるはじめての写真展だ。
この展覧会の展示・構成をデザインしたのは建築家 橋本健二氏。
茨木市にある橋本健二建築事務所が、今年の春、惜しまれつつも解体された。その建物は昭和の子供達がそこで学んだ小学校であり、もともとは明治24年に京都御所の近くに新築された富有小学校だったという歴史のある建築だった。事務所となってからもその場所では、色々な人が集い、それぞれの思い出を作った。
この写真展は、解体が始まり、壊された建材の中から古い梁や柱の一部を使い、新たな事務所ができるまでを写真におさめたもの。100年を越え生き延びた建築物が滅びる姿、そして再生までの物語が焼き付けられている。そこで繰り広げられた過去のシーンを知らない人にも、訴えかける何かを感じた人も多かったのではと思う。
他にもある展示や催しを一通りじっくり見ようと思うと、気が付けばあたりはもう薄暗くなってくる。せめて初日は雨が降らないように、そう願うのは、この夜に特別な催しが予定されていたからだった。
「工務店的晩餐」
それは、この木村家本舗の主である木村氏を中心とする木村工務店の関係者が、木村工務店の仕事に関わる関係各社、建築家を招待し、もてなす晩餐会。これまで「木村家本舗」を心暖かく見守り続けた故木村会長への「感謝」の気持ちを形にした一夜限りの宴だった。お昼の様子とはガラッと変わりドレスアップした中庭では、西宮にあるカフェTabathaによるビーガンメニューが振る舞われた。会場の外にまで、笑い声が聞こえてくる。楽しい時間はあっという間に更けていった。
木村工務店は、戦前から続く歴史ある工務店。建築にまつわる日々の活動はもちろん、「まちのえんがわ」というライブラリーカフェを設けたり、休日には様々なワークショップを行ったりと、地元の活性化に繋げる為の様々なイベントも勢力的に開催している。
その「まちのえんがわ」では、こちらもお昼の雰囲気とは様変わり、えんがわスナックのママ達は微笑みをかえす。加工場ギャラリーでは連日夜からの催しも開催され、子供達ははしゃぎまわり、大人達はほろ酔い。
心配だった天気も見方してくれた2日目。この日も相変わらず、会場に入りきらない来場者が時々外で歓談している光景もちらほら、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。「今日も来たよ」と、少しずつみんなの“楽しい”が伝染していくような、とても和やかな空気。
最終日10月13日。
とうとう来るのか、という前日からの大荒れの予報を心配していたこともあってか、小雨の降る開始早々からこの日も多くの来場者が駆けつけた。急遽夜の宴会イベントもお昼からの開催に前倒しし、加工場ギャラリーのあちこちで美味しい香りが漂っていた。
「今日で終わりか…」なんて言葉が時々どこかで寂しげにつぶやかれる。
5回目となる「木村家本舗」の中毒性なのか、3日間皆勤で訪れる人も少なくない。
「集う、繋がる、広がる」という変わらないメッセージのもと、今年テーマとして掲げられたのは“Thanksgiving – 感謝”
そこに集う人たちの笑顔と笑い声、そして「ありがとう」があちこちで飛び交っていた。
静かになった会場での撤収が終わり、無事に終了した安堵感と共に襲ってくる名残惜しさ。
なんとか持ちこたえたさっきまでの小雨から一転、帰り道に激しく降った大雨も、いい思い出になりそうだ。
「愛と平和と、宴会のある3日間」
お酒のせいかもしれないが、なんだかふわふわとした、あたたかな何かで包まれているような心地がした。
翌日から現実に戻ることが少し嫌になってしまうかもしれないが、もし気になるのなら来年、是非3日間通しで楽しんで欲しい。いつの間にかどこかで誰かが繋がり、最初は小さくても何かの予感が波紋のように広がっていく。それにあの場所で呑むお酒が、何故だか毎年旨くなっている。
こんなお祭りなら帰りが多少遅くなったって、きっと笑って許してもらえる、今年もそんな気がした。
3DAYS GALLERY
「木村家本舗」
https://www.facebook.com/kimurakehonpo
http://www.kimuko.net/honpo
関連サイト
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books+kotobanoie:http://kotobanoie.com
橋本健二建築設計事務所:http://www.kenjihashimoto.com/
MIFUNE DESIGN STUDIO:http://www.mifunedesignstudio.com
家谷植景研究所:http://www.ietani.com
家具工房CARULA:http://carula-furniture.com/